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咎人たちの聖戦  作者: 白騎士58
第二章 冥界に手向ける鎮魂歌
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手鏡 ~彼女の祈り~

 それは恐怖を増長させるようものではなく、とても優しく穏やかなものであった。


 私は先ほどまでの強烈な恐怖が和らいでいくのがわかる。


 ひりつくような喉の違和感もなくなり、小さいながら声を出すことが出来た。


「ペ、ペルセポネさん…ですか?」


 私の真後ろにいる女性は黙っていた。

 ただ鏡の中で私の髪の毛を撫でている。


「正解。ごめんなさいね」


 彼女は謝った。


 私は戸惑う。

 どうして彼女が謝るのか私にはわからなかった。


「あの…醜い化け物…私なの…あの時の私は…憎しみでいっぱいで…誰構わず襲うほどに我を失っていたの…あの人がようやく救われたのがわかって…元に戻れたの」

「あの人…?」

「ああ…私の旦那さんになるはずだった人…優しくて、誠実で…どんな時もそばにいてくれた…だからあの人を選んだ…どんな苦難も乗り越えることが出来ると思った」


 言葉の端々が震えている。


 彼女の表情を見ることはできないが悲しみが伝わってくる。


「あそこにある私の死体の心臓を破壊すればハデスの魂も破壊される…お願い、ハデスを倒して…」


 彼女は祈るように、託すように私の頬を撫でる。


「ようやく…あの人とともに…ありがとう…本当にありがとう…あなたもその思い成就できるといいわね」


 最後、彼女は微笑んでいたように思えた。


 そう思うほどに優しく温かい言葉であった。


 彼女の気配は突然消えたと同時に私を縛っていた金縛りは解けた。


「おい、さっきからピクリとも動かないでどうした…って大丈夫か!? 何かあったのか?」


 カイ様が先ほどの異様な雰囲気に気づき私に声をかけてきた。


 どうしてカイ様は心配そうに私の顔を覗き込むのかと思ったら私の頬に流れる冷たいものに気づいた。


 私は泣いていた。

 それに気づくとポロポロと涙がこぼれてくる。


「あー! 泣かした! いーけないんだー。いーけないんだー」


 ボムボムプリン様はカイ様を指さし子供のように囃し立てる。


 カイ様は狼狽えるがそれもすぐに治まり、ボムボムプリン様に鬼の形相で迫る。


 ボムボムプリン様はたまらず逃げるがすぐに捕まりボムボムプリン様の首を絞める。


 ギブギブとボムボムプリン様はカイ様の身体を叩くがカイ様は無視して首を絞める。

 そんな二人の様子を見ていたら泣く気分にはなれないなとため息をつく。


「本当に大丈夫か?」


 カイ様が心配する。

 心配ないと私は頷く。


「はい、大丈夫です…何にもなかったです」


 カイ様は私を見つめ、何かを言おうとしたが私の様子を見てこれ以上何かを言ってもしょうがないと思ったのか何も言わなかった。


 ボムボムプリン様の顔が青ざめギブアップのタップの回数が明らかに減っている。


 早く絞めるのを解除しないと恐らく彼は死ぬだろうなと思った。


「あの…それ、もうそろそろやめたほうが…」

「あ? …いいんだよ。こいつにとってはご褒美だ」


 そうなんだと半ば納得しかけるとボムボムプリン様はブンブンと顔の前で手を横に振っていた。

 彼なら有り得ると思ったがそこまでではないそうだ。


「よっこいしょ…まあ、これぐらいにしといたろう」


 カイ様がようやく解除する。

 ボムボムプリン様はゲホゲホと膝に両手をついて咳き込んでいた。


「それがペルセポネの手鏡か…机の上に置いて離れていな」


 カイ様は刀に手をかける。


 私はカイ様に言われた通り手鏡を机の上に置こうとする。

 ほんの少しだけ、少しだけ手鏡を置くのを躊躇する。


 それに気づいたのは私自身で二人は気にも留めていなかった。


 私は手鏡を置き離れる。


「よおし・・一発で仕留めたる」


 カイ様は腰を落とす。


「『居合・三桜』」


 カイ様が技を放つ。

 手鏡は瞬きの間できれいに三等分され破壊される。


 その瞬間粘着感のある真っ黒な霧が悲鳴のような音を上げながら出現する。

 一瞬、苦痛に歪めた顔になったと思ったら霧散霧消した。


 これでようやく彼女の魂は解放されたのだろうか。

 これでようやく愛する人と共に逝けるのだろうか。


 そうであってほしい。

 私は短い時間だが、祈りをささげる。


「当たりだったな…あと二つ」


 カイ様は嬉しそうに言った。


「オマール殿たちは無事かな? …そろそろ心配になってきたでござる」


 ボムボムプリン様は回復したようであった。


 そのときガチャリと扉が開く。


 バッとカイ様は武器を構える。


 ボムボムプリン様はサッと私の陰に隠れる。

 普通は逆なのではないかと冷たい目を彼に向ける。


「…随分なお出迎えじゃないか。無事でよかった」

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