奇々怪々の追跡者 ~お休み~
バベル君は微笑を湛えている。
実際は漆黒の鎧が彼の頭からつま先まで包んでいるが、彼を取り巻く雰囲気が柔らかかったためそう見えた。
彼は僕の無事を確認して彼女へと向き直る。
彼女は彼を品定めするようにじっくりと見つめていた。
彼はそんなことお構いなしに間合いを詰めていく。
「バ、バベル君! それに攻撃は通用しない! …逃げよう!」
彼に向かって忠告するが彼は気にもしなかった。
僕は何をやっているのだとやきもきする。
彼は彼女にいつでも攻撃できる間合いに到着していた。
しかし裏を返せば彼女にとってもいつでも攻撃できる間合いでもあった。
彼女は耳をつんざく甲高い叫び声をあげ攻撃しようとした瞬間、彼が彼女の髪を掴み地面に叩きつける。
彼女の頭が地面にめり込む。
その光景を見て危うく目玉が飛び出そうになってしまう。
彼は彼女が起き上がる寸前に頭を蹴り上げ、そのまま右ストレートを顔面に叩き込む。
彼女は顔を両手で覆い悲鳴をあげる。
彼女が今までダメージを受けたことがないことをその反応で容易に想像できる。
彼は『退魔の剣』を引き抜く。
剣は魔力が込められるとともに刀身は光に包まれていく。
彼女は怒りの呪詛を撒き散らしながら彼へと突っ込んでいく。
彼は冷静に両手で剣を高く掲げて彼女が間合いに入るのを微動だにせず待つ。
彼女が両手を大きく広げ彼に掴みかかろうとする。
その瞬間、彼は小さな声で呟いた。
「もう疲れただろう。ゆっくりお休み…『魔を退く閃光』」
渾身の力を込めて彼は振り下ろした。
蓄えていた光りが閃光とともに激しい爆発音を響かせる。
もうもうと沸き立つ煙を引き裂くように彼が出てきた。
煙が収まった後、その光景に驚愕した。
階段は外を覗かせるほど無残に破壊され崩壊しないのが不思議であった。
フルフェイスのように彼の頭を包んでいた『鎧』は解除されていた。
彼は僕を見つけると微笑み近づいた。
そのまま僕の前で彼は頭を下げた
「迷惑かけてごめんなさい・・そしてありがとうございます」
僕はかぶりを振った。
「いや…いや…いいんだ…むしろ、少しでも役に立ててよかった…その礼はマリア君に言うべきだ。彼女は君を守ったんだ」
そう言うと彼は納得したような顔をした。
「ああ…やっぱり…彼女だったんだ…」
彼は遠くを見つめる表情をして呟いた。
その顔はどこか嬉しそうであった。
「おはよう、兄弟。調子は…良さそうだな」
「うん…絶好調だ」
バベル君はその証拠としてピョンピョンと飛び跳ねる。
その様子を見て僕はホッと胸をなでおろした。
どこか調子が悪いものならきっと僕はマリア君に恨まれるだろう。
バベル君を改めて見る。
『鎧』の形が以前と変わっているような印象を受ける。
前のは身体のサイズにぴったり合い、爬虫類のような刺刺しい流線型のデザインであった。
今のはスマートなのは変わらないが金属特有の硬さがなくむしろ軟体動物のような滑らかさがある。
「何か…ついていますか?」
バベル君が首をかしげながら僕を見る。
先ほどから穴が開くほど見つめていたせいでバベル君は居所が悪くなったようだ。
「いや…鎧、格好良くなったね」
頭に血が巡っていない。
もう少し気の利いたことを言えないのかと後悔する。
しかしバベル君はニコッと笑う。
「あ! わかります? …目が覚めたら鎧のデザイン、変わっていたんですよ。結構僕今のデザイン気に入っているんですよ」
彼は本当に気に入っているようでにこにこと笑っている。
よかった、的外れではなかったと僕は内心ほっとする。
「兄弟、それは『鎧』とお前の共鳴が進んでいる証拠だ…やはり随分相性がいいようだ」
意味ありげにユダが低く笑う。
度々ユダの口から出てくる『共鳴』とは何なんだろう。
あまりいい意味ではなさそうだ。
「ふーん…じゃあもっと力を引き出せるわけだ…喜んでいいところかな」
「もちろんだ、兄弟! 喜ばしいことに決まっている。お前の心の赴くまま力を行使すればいい」
ユダは嬉しそうに言う。
マリア君が心配するようにバベル君はユダに対してあまり警戒していないように見える。
確かにユダは的確なことを言うときがありそれに助けられることもある。
しかし僕もあまりユダについて心からは信用していない。
彼から醸し出される雰囲気は、というか実体がないから声のトーンからでしか彼を想像できないのだが、どこか他者を拒否しているように感じる。
それはバベル君も感じてはいると思いたい。
「そろそろ移動したほうがいいんじゃないか? 目的地は逃げ込もうとしていたところだ」
「結局…そこに何があるんだ?」
僕はユダに聞いた。
彼女に追われていた時もユダはそこに逃げ込めといっていた。
そこには何か重要なものがあるということだ。
「…『忘却の椅子』…それがそこにある」
「それの何が…まさかいやでも…」
「うだうだ言ってないで、行け」
ユダは雑に言い放つ。
うーん、こういうところがいけないんだろうな。
「まあ、とりあえず行ってみよう!」
バベル君は右腕を天高く挙げる。
なんだか彼のテンションが高い気がするが元気なのはいい事だと無理やり前向きに捉えることにした。




