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咎人たちの聖戦  作者: 白騎士58
第二章 冥界に手向ける鎮魂歌
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奇々怪々の追跡者 ~その声は何処までもおどろおどろしく~

「ふう…何とか着いた」

「もう少し、安全に行けなかったのか?」


 ユダが僕に向かって嫌味を言う。

 こいつはただしゃべっていればいいだけなのにどうしてこんなにも態度がでかいのだろうか。


「これでも…努力したほうだ」


 相手にしないほうがいいと分かっていてもついつい言い返してしまった。


 ユダは嬉しそうに笑った。

 しまった。


「フフフフ、努力したほうね…そうだな。煙幕弾を使って移動しようとしたらノーコンすぎてあらぬ方向で煙幕を張ってしまい、亡霊たちに気づかれ移動がままならなくなってしまったな」


 その時のことを思い出しているのだろう、ユダはさらに大きく笑い声をあげる。


 恥ずかしさで顔が赤くなった。


 これ以上何かを言ってもユダにまたほじくり返され馬鹿にされるだろう。


 ムッと拗ねた顔で黙って『冥府』内の通路を進む。


「おいおい、ちょっと揶揄っただけだろう…まったく」


 ユダはしょうがない奴めといった感じで呟く。


 こっちのほうがそう言いたいよという気持ちを抑え、僕は先へと進むことに意識を集中させる。


 実際情報収集していた時に『冥府』の情報はまるで集まらなかった。

 だから何が待ち受けているのかわからないこの状況で、ユダにかまっている余裕はない。


 だから僕は言い返さないんだ、決して言い負かされるから言い返さないわけじゃない。


 現実の時もそうだけど言い合いに僕は弱いんだ。

 彼女は気が弱いからというけど相手の酷いところを言うなんて僕にはできなかった。


 この気の弱さのせいで彼女との関係が全く進まないんだ。

 僕は自分の欠点を考えていたら気が重くなり、背中が丸くなっていく。


 そのせいでバベル君が背中からずり落ちそうになった。

 僕は慌ててバベル君の位置を戻そうとしたとき空気が急激に冷たくなるのを感じた。


「…気のせいか」


 すぐにユダが鋭い口調で答えた。


「気のせいじゃない…来るぞ」


 相当まずいのがくることはユダの口調から判断できる。


 気付くと吐く息が白かった。


 背筋が泡立つ。


 後ろから気配がする。


 ゆっくりと後ろを振り返る。


 廊下の曲がり角にミイラのように朽ちた手がかかりゆっくりと何かが這いずり出てくる。

 それは真っ黒なウェディングドレスを身に纏ったミイラのような女性であった。


「あああああああ!」


 それは耳をつんざくほど甲高い叫び声をあげる。


 あまりの不快な声に耳を塞ぐ。


 それはなめるように辺りを見渡し、そして止まる。

 僕をしばらく見つめる。


 僕を見つめる瞳に、しかし実際は眼球などなかったが、吸い込まれるように僕は一歩も動けずにいた。


「何やっている! さっさと逃げろ!」


 ユダが大声で怒鳴る。


 そのおかげで僕を縛っていた金縛りが解ける。

 慌てて回れ右をしてそのまま走りだす。


「あああああああああああああああ!」


 それはまた甲高い叫び声をあげる。


 それが迫ってきているのが背中越しからでもわかる。


 戦うなど欠片も思わなかったことに気付き驚いた。

 何よりも恐怖が打ち勝ち、戦闘そのものの選択を排除していた。


 振り返って戦うか? いや、やめておこう。

 なぜか無意味なことのように感じてしまう。


 ここは自分の直観に従い、逃げることに全力を尽くす。


「ユダ! どこに逃げればいい!?」


 ユダに向かって怒鳴る。

 しかしユダからの返事はない。


 肝心な時に無言になるのだからと僕は内心毒づく。


「…上の階を目指せ。恐らく…何とかなると思う」

「上!? 上を目指せばいいんだな!?」

「ああ…そうだ…しかし期待するなよ…そいつが嫌がりそうなところを思いついただけだ」


 その言葉の意味を知りたかったが悠長に聞いている時間はないらしい。

 

 僕はバベル君を背負って走っている。

 それに鎧も重い。


 いつ体力が切れるかわからない。

 そうなったらすぐにそれに追いつかれるだろう。


 僕は急いで上に行く階段を探した。

 それは案外すぐに見つかった。


 階段を跳ねるように駆け上がるが想像以上に辛かった。


 一段、一段上がるのがこんなにもしんどいものなのか。


 胃の中のものが口から吐き出そうになる。

 それを必死に耐えながら一気に駆け上がる。


「目的地は最上階だ…精々頑張れ」


 ユダがうれしくない追加情報を加える。


 全く有難いね本当に、と脂汗を流しながら思った。


 その時グッと後ろから強く引かれるように後退る。


 振り返るとやはりそれがバベル君を掴み僕から引き剥がそうとしていた。

 バベル君はそれでも目を覚まさない。


 バベル君を掴んでいる手が想像以上に強いのかドクドクとバベル君の身体から血が流れている。


 バベル君が背中から引き剥がされる。

 そのままそれはバベル君を持ち去ろうとしていた。


 素早く戦斧を取り出し、それに攻撃を繰り出す。

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