その頃二人と一人?は…
「ハア、ハア、酷い…目にあった」
息も絶え絶えになりながら路地裏に隠れていた。
上空の亡霊たちから逃れるため家の中に隠れていたが突然真っ黒な毛むくじゃらな連中が入ってきた。
連中は驚くべきことに身体のほとんどが口で出来ており僕たちを見るとその大きな口を広げ迫ってきた。
僕はそれらを薙ぎ倒しながら脱出すると亡霊にも見つかり今の今まで追いかけ回されていた。
「そう思わないか? …バベル君」
背中に背負っていたバベル君に向かって言う。
しかし彼からの返事はなかった。
カロン戦以降彼の意識が戻っていない。
彼はスウスウと安らかな寝息を立てているため生きていることはわかる。
あれだけ激しく戦い、逃げ回っていたのに彼はまったく起きることはなかった。
「すまないね…本当はもっと…上手くやるべきなんだろうけど…中々厳しいね」
返事が返ってこないのを承知の上で彼に話しかける。
当然彼からの返事はなく規則的な寝息だけが返ってくる。
「しかも…どこに向かえばいいのかわからないと来た。ハハ…笑っちゃうね」
あてもなくなるべく陰になるような場所を選びながら進む。
「確かに笑えるな」
突然低い声が後ろから聞こえてくる。
「な、なんだ!」
驚き振り返るがそこには誰もいなかった。
しかし一人だけ思い当たる人物? がいた。
「ユダ…か?」
「ほう、俺のことを覚えていたのか。上々だ」
この不遜な声はユダで間違いなかった。
「君は…無事なんだな」
「無事かどうかは甚だ疑問だが、無事と言えば無事だ」
僕はユダにバベル君の状態について質問してみた。
「バベル君は…無事なのか? 彼は今どういう状態なんだ?」
「一時的に力を使いすぎた反動で意識を失っているだけに過ぎない。しばらくしたら目を覚ますさ…しかし情けない」
ユダは最後吐き捨てるように言った。
その言い方に少し腹が立った。
「どういうことだ? 彼は立派に戦った…その言い方はないんじゃないかな」
「ふん、立派ね。俺は力を使えと散々言っていたのに兄弟はあまり使おうとしなかった。『呪い』は日々兄弟の感情を喰らい成長している…うかうかしていると使いこなす前に死ぬ。そうなると…俺が困る」
ユダは淡々とした口調で言った。
彼は彼なりにバベル君のことを心配に思っているのかと好意的に捉える。
比較的冥界に詳しいと思われるユダにどこに向かっていけばいいのかアドバイスを求めることにした。
「もう一つ情けないことに僕は迷っていてね…どこに向かばいいかわかる?」
「そうだと思ったよ。さっきから同じところをぐるぐる回っているぞ」
マジか、先に進んでいると思っていたら実際は全く進んではいなかった。
「まあ、上に厄介な奴らがいるからな、仕方がない。…兄弟が目を覚まさないうちにハデスと鉢合わせになりたくない。推測するにハデスは『天と地をつなぐ螺旋階段』にいるだろうな」
なぜと思い、首を傾げる。
「簡単だ…ペルセポネの死体の近くにできるだけいたいからだ」
ユダは気持ち悪いものを吐き出すように言い放った。
僕は苦笑いした。
ハデスはかなり純愛というか偏愛というかそういう人物らしい。
「俺たちはこのまま『冥界の砦』にあるハデスの居城、『冥府』に向かう。そこにある『忘却の椅子』とペルセポネの手鏡を破壊する」
「『冥府』はどこにある?」
「『天と地をつなぐ螺旋階段』の近くだ。…ハデスにばれるなよ」
天を貫かんとするほど高くそびえ上がる建物を見上げる。
これからの行き先が分かり、ほのかだが希望が見えてきた。バベル君に向かって話しかける。
「聞いていたかい? …僕たちはこれから『冥府』へと向かう。きっと彼らもそこに向かっていると思う。…君はゆっくり休んでいなさい」
当然返事を期待しなかった。
規則的で安らかな寝息を聞きながら先へと進む。




