渡し守カロン 7 ~残された希望は頼りなく~
カイ殿が吹き飛んでしまった、しかもかなり遠くへと。
吾輩は衝撃波が襲う前に地面に突っ伏したお陰で何とか難を逃れた。
小鬼が放った衝撃波の威力の凄まじさはこの部屋がほぼ半壊状態かつさっき通った通路が崩壊を始めていることからわかる。
それをカイ殿はまともに受けてしまった。
いや直前にカイ殿は必殺技を放ち一部衝撃を相殺していたようにも見えた。
しかしそれでもカイ殿の戦線復帰はかなり困難とみるべき。
とういうことはあの小鬼を吾輩一人で倒さねばなるまい。
吾輩はちらりと小鬼のほうに視線を向ける。
小鬼はまだ口をだらりと大きく開けていた。
あの口はどうなっている
体積とか無視しているけど大丈夫
というか吾輩攻撃手段ゼロに等しいけど大丈夫なの
とピカイチに光る吾輩の頭脳が目まぐるしく回っている。
小鬼はこちらをちらっと見る。
小鬼の顔がぐにゃりと歪む。
あれもしかして
「貴様! 今、哀れんだな!? 貴様のような口裂け大口野郎で貧相な身体の持ち主には吾輩のこの溢れんばかりのまん丸ふくよか触ってみたいナンバーワンボディのよさがわからんでござろうな!」
小鬼に指し示しながら地団駄を踏む。
小鬼はそれをうざったそうに聞いている。
さらに吾輩はユーモラス溢れ、機知にとんだ言葉の数々を使い小鬼を煽り倒す。
流石に小鬼は無視しているのが億劫になったのかヤレヤレといった感じで首を振った。
「さっきから何でござるか!? 吾輩、そんなに可哀そうな生き物でござるか!」
その態度に怒り心頭、まさしく怒り心頭。
ええい、攻撃手段がなかろうとこいつは吾輩の力で倒す。
どうせ衝撃波だけ気を付けていればいい、遠くから焼夷弾とか投げつけていれば楽勝。
というかそこに気づくとは吾輩、やはり天才なのではな?
と自分の天才ぶりにニヤニヤしていると、小鬼は大きく開けた口の中に手を突っ込んだ。
「…何しているの?」
少し、いやかなりの不穏さを感じていると口の中から小鬼の身の丈ぐらいの金棒が出てきた。
「いや…それは…卑怯じゃありませんか?」
顔がひくひくとひきつけを起こす。
小鬼はコバエを潰すような感覚でこちらを見て、ゆっくりと近づいてくる。
吾輩は近づいてくるのを悠長に待っているほど気は長くはない。
急いで走り出す。
小鬼も金棒を振り回しながら追いかける。
今まで誰にも見せていないし、自分でも予想できなかったほどの華麗な動きでその金棒を避け続ける。
実際はすべったり、転んり、弾んだりと全然華麗な動きではなかったが。
小鬼はその鬱陶しさに苛立ち始めているようであった。
小鬼が振る金棒の動きが大胆にかつ大雑把になり始めていた。
ここで戦闘に長けた猛者ならばこの隙に小鬼へと一太刀浴びせるのだが、吾輩には到底無理な話。
この終わりの見えない追いかけっこが延々と続くので少し割愛。
体感10分くらい経過したあたりで胃の辺りが限界突破寸前の悲鳴をあげる。
ぜひゅー、ぜひゅーと先ほどから異常な呼吸音を醸し出していたから限界が目前まで迫っているのが自分でもわかる。
しかしそれは小鬼もそうなのだろう。
最初の頃の速く鋭い攻撃は今では振り上げ、振り下ろすので精一杯で肩で息をしているようにも見える。
さらに小鬼を追い詰めるため振り向き中指を立てる。
「ぜひゅー、もう、限界、でござるか、ぜひゅー、他人に任せすぎて、ぜひゅー、引きこもりすぎて、ぜひゅー、体力カスに、なってるでござるか!?」
息も絶え絶えながらも煽りを完遂させる。
小鬼はプシューと耳と鼻から煙をあげる。
怒って煙をあげる奴を始めてみたと心の中で感動していると、小鬼はピタッと追いかけるのをやめる。
ガバッと一気に小鬼は口を大きく開ける。
追いかけっこに終止符を打つべく、衝撃波を撃ち込もうとするつもりだがそれは愚策。
素早くポーチからアイテムを取り出す。
ありったけの焼夷弾をテープでまとめそれを小鬼に向かって投げつける。
小鬼はその焼夷弾に気付いたが口を大きく開けすぎて即座に閉じることが出来ない。
焼夷弾は小鬼の口に吸い込まれていった。
大きな爆発と火炎が巻き起こる。
比較的近い距離でこの爆風を受けたせいで吹き飛ばされ、火炎によって少しやけどを負う。
これほどの威力をまともに受けたから流石に小鬼は粉々になったと確信する。
しかし非情かなもうもうと煙る爆炎からゆっくりと小鬼の姿が現れた。
小鬼は左手が吹き飛び顔の半分が無くなっていたがそれでも金棒を持ち近づいてくる。
非常にまずい、吾輩は先ほどの爆発で身体が思うように動けない。
這うように小鬼から逃げようとするが、ジタバタと足が動くだけで前へと進めない。
小鬼はその姿を見て半分無い顔でにやにやと不気味に笑う。
ぎゅっと目をつぶり迫りくる運命を受け入れる準備をした。
ぶるぶると震え、待っているがその時はなかなか来ない。
なんという放置プレイをするのかと心の中で嘆いたが、そうではなかったらしい。
確認するために薄目を開けた時、叫びそうになった。
カイ殿が小鬼と対峙していた。




