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咎人たちの聖戦  作者: 白騎士58
第二章 冥界に手向ける鎮魂歌
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渡し守カロン 1 ~その船はあまりにも~

 渡し守カロン。


 彼の役目は冥界に来た哀れな魂たちを迎え『魂の黄河』を渡りハデスが住まう『冥界の砦』へと送る。


 その間渡し守カロンは哀れな魂たちに待ち受ける運命について懇切丁寧に教える。


 たいていはその説明を聞く前に己の運命を呪うだろう。



 残酷な運命を告げる船が見えてきた。


 僕は吐き気をこらえるのに必死だった。

 オマール以外の他のみんなも似たような表情をしていた。


 オマールは双眼鏡で事前に知っていたためみんなよりは随分マシな表情をしていた。


 船は木材でできていなかった。



 人で出来ていた。

 皮を剥がされた人を木材のように組み合わせて船はできていた。

 帆は剥がされた皮で出来ている。

 しかも船が近づくにつれ悲鳴のようなものが聞こえてくる。


 もしかして材料として使われている人たちはまだ生きているのかもしれない。

 船首像には大きな骸骨に皮を剥がされた人々が纏わりついている。


「吾輩…気持ち悪い…」


 ボムボムプリンはそういうが否やキラキラ加工をされたものを嘔吐した。


「だからって本当に吐くなよ。…大丈夫か? 紙袋ならあるぞ」


 カイがそっとボムボムプリンに紙袋を渡す。

 ボムボムプリンは紙袋をさっと奪い取り嘔吐を続ける。


「…どうして冥界にはこうも気が滅入るようなものしかないのですか?」


 マリアが信じられないといった顔をしている。


「…船が岸についたら突入しますか?」


 僕はカイとオマールに訊く。


「そのほうがいいかもしれない」

「スピード勝負には変わらないからな。…岸についたら速攻をかけるぞ。お前もその間までには回復しておけ!」


 カイがボムボムプリンに向かって怒鳴る。

 ボムボムプリンは背中を見せながら親指を立てて了解を示した。


 本当に大丈夫だろうか。

 僕はマリアのほうへと視線を向ける。


 マリアは覚悟を決めたのか先ほどまでの気分の悪そうな表情ではなかった。

 マリアは見ていることに気づいてこちらに顔を向ける。


「大丈夫ですよ、バベル様。バベル様のお力になれるよう頑張ります」


 マリアはにっこりと微笑んで言った。


 随分たくましくなった。


「ああ。期待しているよ」


 僕のその言葉でマリアは嬉しそうに笑った。


「お二人さん、いい雰囲気のところ悪いがそろそろ時間だぜ」


 カイがにやけた顔で言った。


 僕とマリアは慌てて離れる。


 

 カロンの船は錨を下ろすとすぐにスルスルと梯子のようなものが落ちてきた。

 よく見るとそれは髪の毛で出来ているようにも見える。


「…あれを登るのか」


 オマールがげんなりとした表情で呟いた。


「泣き言言ってんな! 行くぞ!」


 カイの発破を受け、僕たちは船へと駆け寄る。


 マントのおかげで船へと向かうまで亡霊たちは反応しなかったがカロンと戦闘になったら流石に反応してくるだろう。


 自然、ぎゅっと梯子を握る力が強くなる。

 そうなったら僕が亡霊たちの相手をしなくてはいけないだろう。


「兄弟、その通りだ。お前しか果たせないことがある」


 ユダが僕にだけ聞こえるように囁く。


「その心の赴くままに力を使え。兄弟、お前は選ばれた」


 ユダはさらに続ける。


「何にだよ?」


 ユダに尋ねる。


「…時期わかる」


 ユダは勿体ぶったように囁き、それ以降話しかけてはこなかった。


 ユダは何かを隠している、それはわかっている。



 僕は梯子を登る、一歩、一歩確かに足をかけ、一つ上の段へと手をかける。

 ただ僕は梯子を登っているだけなのになぜか真っ逆さまに落ちていっているような感覚に襲われる。


 僕たちは無事に入船を果たした。

 

 甲板に出るとカイ、オマールはもうそこにいた。

 僕の後に続いていたマリアに手を差し伸べ手助けする。


 マリアが甲板に出るのと同時にオマールが顎だけで示した。


 マストの近くにボロボロの布切れを纏っている一見聖職者のような出で立ちをしている者がいた。


 それはしわがれた声で言った。


「ようこそ、ようこそ、私は魂の運び手カロン。私の役目は死者たちの魂をハデス様のところへ送りその魂が静寂と安らぎとともに眠れるよう手助けする、すばらしい名誉ある役目である」


 カロンは恍惚とした声音で天を仰ぎ、自らの役目について話す。

 その姿は狂信者のそれだった。


「…ふん、安らぎね」


 カイが皮肉交じりに呟いた。


「そう! 死者たちの魂に安らぎを! …知っているぞ、お前たちは生きている。それではいけない。生は苦痛と恐怖にまみれている。哀れなお前たちを私が救ってやろう」


 カロンの素顔が見えた。


「きゃあ!」


 マリアが短い悲鳴をあげる。


 カロンはミイラのように乾燥しきっており、眼球があるはずのところには何もなく、鼻は剃り落とされたのか凸凹した痕が残っている。


 カロンは両手をおもむろに合わせる。

 その両手をゆっくりと離していくとオールが出現してきた。


 僕たちは武器をすぐに構える。


「武器オールかよ、しょぼいな」


 カイが馬鹿にしたような感想を述べるがその表情は硬く、刀を握る手は震えている。


 カロンが纏う不気味なオーラに警戒している。


「油断なさらぬように」


 オマールはカイに釘を打つ。


 カロンはオールを両手で持ち、大きく身体をひねりながらオールを後方へと振る。


「…何してるでござるか? あんなところから当たるわけないのに…」


 不意にカロンは口元を耳まで裂ける。


 笑っているのか。

 僕はその表情を見た瞬間背筋が泡立つ。その不快感のままに叫んだ。


「みんな伏せろ!」


 その言葉が終わるとともにカロンはオールを振り切った。

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