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咎人たちの聖戦  作者: 白騎士58
第二章 冥界に手向ける鎮魂歌
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出航前

「…やっぱりきつくなっていますね」

「まあ、それはそうだろうな」


 マリアが空(というより天井か)を見上げている。


 あの亡霊たちが数百の塊で一つの集団となり空を漂っている。

 おそらく僕たちを探しているのだろう。


 他にも監視という役割もあるかもしれない。


「これは…派手に戦うことはできないかもな」


 カイは面倒くさそうに呟く。


 僕たちは今物陰一つない灰色の荒野にいる。


 空中を縦横無尽に漂っている亡霊たちの監視の中、僕たちは悠々とそんな監視員たちを見つめている。

 

 なぜそんなことが出来るのか。


 答えは簡単、灰色の荒野に対して僕たちは灰色のマントを羽織っているからだ。


 空中に亡霊たちがいることに気づき慌ててこのマントを作成していた。


「最初はかなり不安があったが案外有効だったな」


 オマールが安心したように呟く。


「むっふふふふ。奴ら所詮は単細胞生物。吾輩の華麗なる技術をもってすればだますなど赤子の手をひねるよう! むっふふふふ!」


 ボムボムプリンは胸を張り、鼻高々であった。


「…なんかむかつくなあ」


 カイが納得いかないような表情をしている。


 僕たちはボムボムプリン曰く華麗に監視の目を免れながら『魂の黄河』へと無事到着した。


「これが…『魂の黄河』」


 マリアが苦しそうな呻き声となってしまっている。


 黄河という名前で大きな川をイメージしていたが僕が知っている川はそこにはなかった。


 黄色のドロドロしたような液体が不規則にいろいろな方向に向かって波打っている。

 そのドロドロした液体の中にはミイラみたいな人間がたくさん流されている。

 そのどれもが苦痛と恐怖に顔が歪み苦悶の表情をしていた。


 ついにマリアは顔を背けてしまう。

 見ていて気分が悪くなったのだろう。


 かくいう僕もかなり気分が悪い。


「悪趣味だろ?」


 ユダが愉快そうに訊く。

 どうしてそんなに愉快になれるのかはわからないが悪趣味というのは同意する。


「これは…泳いでいけるものではないな」


 僕がそう言うと


「吾輩は死んでもお断りでござる!」


 ボムボムプリンが胸の前で大きなバッテンを作りながら食い気味で断った。

 オマールのほうに視線を送ると、オマールは双眼鏡を覗いている。


「…近くにカロンはいないようだ。しばらく待つ必要がある」


 オマールはカロンを探していたらしい。

 カイはそれを聞くと頷き、向こうの岩場へ指をさす。


「あそこで隠れて待とう。なあにそんなに待つことはないさ」


 カイに促されるままに僕たちは岩場へ隠れた。


 岩場に向かうとき、僕とマリアにカイが近づき


「見ればわかると思うが悪趣味はもっと続くぞ」


 カイは僕とマリアに向かってニヤリと笑った。


 マリアは引きつった笑みを見せた。


 出来ればもう勘弁してほしい。


***********************************************


「…ようやく来た」


 オマールが腹ばいの状態となり双眼鏡を覗いている。


「どこでござるか?」

「まだ少し遠いが…ほら、うっすらと見えるだろ?」


 オマールが指を指した方向に目を細めながら見ると確かにうっすらと船のようなものが見えてきた。


「ここからじゃあまだ何とも言えないが、かなり大きそうだな」

「…上手くいけば上にいる連中にばれずにカロンを討伐できるかもしれない」

「それでもかなり迅速に手際よくやらないと」


 ただカロンを討伐すればいいのではない。


 カロン討伐中に亡霊たちの邪魔が入らない保証はないし、ケロべロスを討伐したようにカロンを討伐したらその瞬間無数の亡霊たちの軍勢が襲来し『魂の黄河』の上で戦うことになるかもしれない。


 そうなったら渡河できるかどうかもわからない。


「…リスキーだな」

「カロンは討伐しなくていい」

「そうなんでござるか!?」


 ボムボムプリンが驚く。


 なぜボムボムプリンが驚いているのかは疑問であるが僕もその発言の意図が分からなかった。


 僕は不可思議そうな顔で首を傾けているのを見てカイが答える。


「ちと言い方が悪かったな。実はカロンを討伐すると船が破壊されて『魂の黄河』を渡ることが出来なくなってしまうんだ。…だから『魂の黄河』を渡りきるまではカロンを縛り付けるなりして捕まえてなきゃいけない」

「…難易度は普通に討伐するよりは高そうですね」


 ハデスの魂を分け与えられたモンスター、恐らくケロべロスレベルのモンスターであることは容易に予想できる。


 そのモンスターをただ倒すわけではなく『魂の黄河』を渡りきるまで生かしておかなくてはいけない。


 かなり困難であろう。


「むっふふふふふふ! そういうことでござったか!」


 ここでボムボムプリンがまた胸を張り高らかに笑った。


「馬鹿! 声のトーン落とせ!」


 カイが慌ててボムボムプリンの頭を引っ込ませる。


 ボムボムプリンは一瞬肩を落とした。


「カイ殿が吾輩に頼んでいたものはこのためでござったか」


 ボムボムプリンはそう呟きながら自分のポーチをごそごそと何かを探している。


「そうそう、これでござる。タリラタッタラー、麻酔弾!」


 どこに対してかはわからないがギリギリアウトのように感じるリズムを口弾みながらボムボムプリンはアイテムポーチから取り出した。


 麻酔弾は黄色のカラーボールのような形をしていた。


「これを弱った敵に数発投げつけると、あら不思議―、敵はすやすやと眠ってしまうのさー」


 ボムボムプリンは裏声を使って説明している。なぜだろうこれ以上はまずい気がする。


「流石カイ殿、先見の明が際立っている!」

「流石カイ様です!」

「流石です」

「そうだろう!」

「あれ、おかしいな。麻酔弾作ったの吾輩でござるよ!」


 僕たちがカイを褒めているとボムボムプリンが端っこで小さく抗議していた。

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