咎人たちの現実 4 ~恐怖~
むしゃむしゃと顔をひん曲げながら昼食を頬張っている。
かれこれそんな表情をしながら1時間経過していた。
なぜこんな嫌そうな表情をして食べているのか、これには訳があった。
異変に気付いたのはログアウトしてすぐだった。
いつも通り扉の前にポツンと置いてあった食事を食べていると
「味が…ない」
愕然としてしまった。
気のせいという可能性もあり慌ててさらに一口二口と食べ進めみる。
結果は気のせいではなく、味がなく砂利を食べているようであった。
なぜこんなことが起こっているのか、心当たりが一つしかなかった。
それは『憎悪は呪い』であろう。
まさか現実世界まで影響を及ぼすとは考えたこともなかった。
すぐに製造元へとメールで連絡したが、如何せん外国の会社だ。
日本語のメールを読んでくれるのか。日本支部があるからそこはなんとかなりそうだが。
そんな心配をしながらむしゃむしゃと砂利を頬張る。
こんなにも楽しくない食事があるだろうかと嘆くその時、突然味覚が元に戻った。
ミートスパゲッティに含まれるトマトとひき肉の絶妙な調和が鮮烈に、強烈に感じられる。
よかった元に戻ったと一安心する。
しかしこれで終わりと安心してはいけない。
恐らく、いや確実に『憎悪は呪い』の力を行使していけばこのような感覚異常は起こってくるだろう。
だから何だ。
不安になりかけたそのときだった。
あの悲痛な断末魔が聞こえる。
それはいつまでも耳を塞ぐように木霊している。
自分より弱い者から力尽くで奪った。
自分より弱い者に無理やり押し付けた。
もう後には引けない。
昼食を食べ終わり扉を恐る恐る開け、人がいないことを確認する。
食事を静かに置き、扉を閉めようとするその時
「貴ちゃん?」
階段を上っていたおばさんの接近に気づかなかった。
狙ってやがったな。
思わず声をあげそうになるのを僕は我慢する。
おばさんはすこしぽっちゃりしているが年齢に合わない愛嬌のある顔を覗かせる。
さっと僕は顔を俯く。
おばさんは何でもなかったように笑顔を見せる。
「元気? 最近は毎日ご飯食べるようになったじゃない。…お部屋入ってもいい?」
おばさんがそう言い終わるや否やさっと扉に近づく。
僕は慌てて扉を閉める。
「貴ちゃん! おばさん、心配なの。このままじゃ、だめだって。貴ちゃんもわかるよね?」
押さえるように扉に寄りかかり、僕は何も答えなかった。
おばさんは続けて何かを言っていたがノイズがかかったように耳に入ってこない。
しばらくしておばさんは諦めたのか階段を降りる音が聞こえる。
ごめん、本当にごめんと心の中で呟く。
なぜこんな簡単な言葉ですら口に出すこともできないのだろうか。
僕はまともに二人と話したことがあったのだろうか。
それでも二人はめげずに僕とコミュニケーションをとろうとする。
しかし僕は話すことが出来なかった。
ゲームの中なら話せるのにどうして現実の生身の人間、しかも僕のことを思ってくれる人と話すことが出来ないのか。
震える肩を両手で押さえうずくまる。
怖いんだ、とっても怖いんだ。
しばらくそのままの姿勢で震えを抑えていた。




