咎人たちの現実 3 ~現実はいつも厳しくて~
「ムッフフフフフ」
船首ギリギリで両手を腰に当て胸を張っている男がいる。
船首が荒波をかき分けるたびに波しぶきが男に容赦なくかかる。
しかし男は動じない。
男には今まさにこの場にいやしない黄色の声援が聞こえている。
男は今こう思っている、吾輩すごくかっこいいんじゃねと。
実際は波しぶきで全身ずぶぬれ、たるんだ身体が湿った服により強調されている。
現実との乖離を意識していない彼は己のかっこよさに酔いしれていた時、不意にうっと胸に手を当てる。
これはまさか、そう、これはヴォーミット!
彼はキラキラ加工された吐しゃ物を大海原にぶちまける。
「何やってるんだ、お前! ちったあ海に慣れやがれ!」
操舵室から雷のように鋭く走り抜けるような怒声が飛んでくる。
浅黒く焼けた肌、全身は重たい網を持ち上げるために自然に鍛えられ、筋肉の解剖がよくわかるほど隆起している。
額には大漁と書かれた鉢巻を付けている。
このザ・海の男は彼のファーザー、御年68歳。
「ちょっ! わ、吾輩今まで泳いだこともないでござるから、き、厳しいものがある!」
「うるさい! 今日はなんとしても大物をとるぞ! ついでにお前の腐った性根を叩きなおしてやろう!」
ファーザーは彼の弱音をバッサリと切り捨て絶好の狩場ポイントへと進める。
ここで死ぬかもしれないと彼はそっと覚悟し、4度目のキラキラ加工を彼は大海原へと盛大に吐き捨てた。




