咎人たちの現実 2 ~騎士様~
憂鬱だ。とても憂鬱だ。
「杉山くん。杉山くん。大丈夫? 顔真っ青よ」
同僚の鈴木京香さん顔面蒼白な僕を心配して耳元に囁いた。
幾分ポジティブな聞き方をされ、僕は愛想笑いを返す。
今日この会議はわが社の今後一年間の方針を決定させてしまうほどの重要度を担っている。
この会議で何を決定するかというと
ざっくり言ってしまえばどの企業が主幹となってイベントを開くかということだ。
僕たちの番は最後から二番目、しかも僕たちの前の企業はここ最近連続で主幹を務めている企業であった。
その事実を思い出すとますます血の気が引いてくる。
鈴木さんは仕方ないなあといった感じで大げさに肩をすくませる。
「おやおや、あの神話に出てくるケロべロスを討伐した騎士様がこの程度ことで弱気になっているなんて…まったく嘆かわしいことです」
「ゲ、ゲームと現実は違うよ! そもそも先月まで会計専門だった僕がプレゼンなんて絶対この企業人選ミスってる!」
僕は小声で会社の不満を漏らし、己の境遇を呪う。
鈴木さんはそんな僕を揶揄うような笑みで
「それだけあなたが優秀ってことじゃない? みんな期待しているのよ、騎士様」
なんてこった。
銃の使い方もわからない新兵を最前線に送り戦況が好転すると本気で思っているとしたら悪いことは言わない速く転職しようと僕は心の中で決心する。
僕がまだ腹をくくっていないのを鈴木さんはもどかしくなったのかバシッと僕の背中を叩く。
「痛い!」
不意打ちであっても大きな声を出さなかった自分をほめたくなった。
「男ならシャキッとしなさい! …ケロべロスと戦っていた時はかっこよかったのになあ」
「えっ。今なんて言った?」
最後のほうがかなり小さな声で聴きとれず聞き返す。鈴木さんはにっこり微笑み、鋭く言い放つ。
「いつまでもぐちぐちしているのかっこ悪いと思うよ」
グサッと僕の胸に突き刺さる。
僕が抗議しようとすると見透かしたように鈴木さんはそっぽを向いてしまう。
しばらく無言が続く。
そっと鈴木さんの横顔を盗み見る。
神様だって一目見れば自身が作った戒律を放り投げるだろうくらい息をのむほど美しかった。
時折前髪をたくし上げる仕草に他の会社の男どもの遠慮ない視線が集まる。
鈴木さんはわが社でも有能でかつ美人であるため多くの男が狙っている。
僕も寡聞にもれずその一人であった。
鈴木さんは男勝りだから頼りがいのある人物が好みなのだろう。
僕とは正反対の人物だ。僕がそうなる? そんなの無理だと勝手に一人で項垂れる。
彼女との出会いは彼女からあるゲームに誘われたときであった。
どうして誘われたのかあの時の僕は有頂天になっていたため記憶がほぼなかった。
せめてゲームの中だけでも男らしくあるため無理して騎士の設定を作り、あえて危険な盾役を努めた。
この時期から彼女と交流が増え仕事を一緒にすることが多くなったような気がする。
彼女とゲームができるのは幸福であったが唐突に呆気なく終わってしまった。
彼女はみんなを逃がすためにゲームオーバーになってしまった。
もう彼女はゲームを続ける気はないようだ。
その代わり僕の録画してあったゲームプレイをちょくちょく見に来てくれる。
それは単純に嬉しかった。
「ほら、しょげてないで。…次よ」
彼女は僕に向かって微笑んでくれる。
僕はまだ蒼白で、背中は嫌な汗でびっしょりと気持ち悪い。
それでも僕は彼女のその笑顔を見るたびに力が沸き上がってくる、気がする。
多分きっと恐らくそうであってほしい。
「次、カプライメイカー様どうぞ」
事務的な口調で僕たちが呼ばれた。
「はいっ!」
やるだけやってやるとそう決心し立ち上がる。




