咎人たちの現実 1 ~足踏み入れたるは泥沼~
まどろみから覚めるように現実世界へと意識は戻る。
そのたびに言いようのない安心感を得る。
リクライニングチェアに深く腰掛け、少し背もたれを後ろへと倒す。
人肌と同じくらいに温めたアイマスクはもうすっかり冷え切り、脚にかけていた毛布は床に蹴飛ばされていた。
これがいつもの俺のゲームスタイルだ。
そう嘯いてないとみっともなさが溢れてしまう。
リクライニングチェアの居心地の良さに後ろ髪をひかれながら立ち上がった俺はいつものようにコーヒーメイカーの電源を入れコーヒーを淹れる。
ブラックで熱いコーヒーを一気に喉に流し込む。
あー、生きているってこういうこと言うんだなっと心底満たされる。
なんて馬鹿なことを考えているのだろうかそりゃ呆れられるよなと苦笑する。
「ただいま。今回も父ちゃんあんま活躍できなかったよ。…次はりーちゃんが好きだったテレビのヒーローのようにバシッと決めるからよ」
もうその記憶も朧気になっているが、はにかむように言った。
視線の先にある写真立てには我が子に優しく微笑む母親と元気いっぱいの笑顔を見せる三歳くらいの女の子の写真があった。
この写真の女の子は本当ならどれくらい成長しているのだろうか、母親似であるためさぞ綺麗になっていることだろう。
未練がましいぞ、と自分をたしなめるが終ぞこの写真だけは捨てることが出来なかった。
俺は小腹を満たすため冷蔵庫を開ける。
げんなりとしてしまった。
冷蔵庫には缶ビールでびっしりだった。
深く、深くため息をつく。わかってはいるけれどやめられない。
昔よりは随分ましにはなっている。
断酒会で会ったスキンヘッドの見るからに堅気ではなさそうな奴に薦められ始めたこのゲーム。
確かに一定の効果があった。
後は決断するだけだ。
明日こそ捨てようと俺は何度目かの決心をし、缶ビールを開ける。




