墓場であったが100年目
死者たちに墓場が必要なのかという議論を語るのは恐らく色んなところで物議を醸すために多くは語るまい。
しかし自分が埋葬されるときは少なくともこういう墓は嫌だと率直に思った。
『冥府の墓場』、ここの墓は好意的に言うならばとっても独創的で個性的だ。
これなら没個性とは言われない。
本音はすごく悪趣味だ。
まず日本の墓をイメージするならそれは大間違いだ。
どちらかというと西洋の墓場でよく天使の銅像が墓の側にある、そんなイメージのほうが合うだろう。
それでもかなり好意的な印象だ。
裸の女性が鎖にがんじがらめに縛り付けられた銅像
首と手足のない女性の銅像
犬がズラリと並ぶ犬歯が目立つ口の中に女性の生首がある銅像
鳥に腹をついばまれている女性の銅像
などなど、よくこんなものを墓として採用したなと思ってしまうものが無造作に立ち並んでいた。
ここに埋葬された哀れな死者たちは恐らく平穏とは無縁な眠りについているのは間違いない。
「どこに向かえばいいんだ?」
ユダに尋ねる。
「向こうに丘が見えるだろう。それを超えた先、『冥府の黄河』で囲まれている『冥府の砦』、そこが目的地だ」
「『冥府の黄河』?」
「『冥府の砦』?」
僕とマリアは初めて聞く単語を子供のように聞き返した。
「見ればわかる」
ユダはそっけなく答える。
「気を付けろよ。丘を越えた先はケロべロスのテリトリーだ」
それと併せて警告する。マリアの顔が強張る。
「バベル様、ここからはより慎重に行きましょう」
真剣な顔をしたマリアが念を押すように僕に言う。
ケロべロスを一目見てみたかったという願望を見透かされていたかも。
この際そんな願望はかなぐり捨てよう。
「そうだな。慎重に行こう」
マリアに向かってというより僕自身を戒めるように言った。
「…招かざるお客様のようだ」
ユダが小さく呻く。
その言葉とともに墓の下からアンデットたちが溢れ出てくる。
とてもベタな演出と心の中で思ったが、マリアは心底驚いていた。
「し、死者が蘇りました!」
これがゾンビ映画に出てくる人の反応かと感激しながら今まさに足元から出てきたアンデットたちを淡々と処理していく。
「バベル様、無反応すぎです!」
マリアがツッコむ。
いや、だって対処しないとこっちが危ないじゃん。
アンデットたちは脆く、一撃で粉砕できるが、数が尋常ではない。
次々にジャンジャン湧いてくる。
マリアも短剣で応戦している。
慣れないながらも一対一なら危なげなく倒せている。
しかしそんな状況も長くは続きそうない。
「…らちが明かない。このまま丘まで突っ切ろう」
「賛成です!」
「同意」
ユダとマリアの意見が一致した。
結構珍しいなと心の中で思いながら、アンデットを撃破しつつ退却を試みる。
しばらく走っていると、前方から野太い悲鳴が聞こえてくる。
そちらに視線を向けると
「なんだ、あれ…死神!?」
これまたベタな演出のように前方から巨大な鎌を持ち、黒いぼろきれを纏った骸骨が宙を浮いている。
それはまた大量にアンデットを引き連れていた。
「デスイーターだ。冥界名物のモンスターだ」
ユダが答える。
冥界名物ってなんだと心の中でツッコミを入れる。
そのデスイーターは三人組を追いかけているようであった。
野太い悲鳴はあれらからのようだ。
追いかけられている三人組がこっちに手を振りながら走ってくる。
「あいつらこっちに向かってくるぞ」
ユダが面倒くさそうに言う。
「助けてあげましょう!」
マリアが力強く主張する。
仕方がない旅は道連れ、世は情けという。
三人組救出のためデスイーターと対峙することを決める。
三人組とすれ違う瞬間僕は飛び上がりデスイーターに斬りかかる。
デスイーターは突然の反撃が来ても慌てるそぶりを見せず、鎌で防ぎそのまま僕を弾き飛ばす。
デスイーターはさらに追撃を加えようとするが空中で何とか防ぐ。
しかし受け身を取れず地面に激突する。痛みが背中に走る。
デスイーターは鎌を振り上げ渾身の一撃を加えようとする。
その時デスイーターの頭に何かが当たりピンク色の液体がぶちまけられる。
「やりました!」
マリアの声が聞こえる。マリアがペイント弾を投げたのであった。
デスイーターは突然視界が見えなくなり混乱している。
その隙に飛び上がりデスイーターの左腕を斬り落とす。甲高く鋭い悲鳴が響き渡る。
デスイーターはたまらず踵を返し、逃走を図ろうとする。
逃げるその背中を真っ二つにする。
デスイーターは、今度は悲鳴をあげることなく消滅した。
「すまん! 助かった」
三人組の一人目は日本刀を帯刀している赤毛で三白眼の和服を着ている男が左手だけで合唱を作り何度も感謝を伝えていた。
おそらくこの男が三人組のリーダーだろう。
二人目は真っ白な甲冑を着こんだ男で恐らく騎士であろう。
彼は戦斧を振り回しアンデットたちを薙ぎ払っている。
三人目は丸い、いや本当に丸いという表現が正しい。
迷彩服を着たボールが機敏な動きでアンデットたちから逃げ回っている。
「助力、誠にかたじけない。騎士オマール、この恩は忘れない」
白い騎士が堅苦しい感謝の意を述べる。僕もこの調子で返したほうがいいのかと思っていたら
「気にするな! こいつは形から入るやつだ! あ、俺はカイ、よろしく!」
「吾輩は、ボムボムプリン! 助けてくれてさんきゅー!」
和服の男とボールが続けざまに自己紹介する。
ボールの声が無駄に低くイケボでむかつく。
それにしてもカイという名前どこかで聞いたような。
「あん! よく見れば、バベルじゃねか! 生きていたのか!」
勘違いではなかったようだ。
そうだ、だんだん思い出してきた。
彼とはあの『遠征』で知り合った。
オマールとボムボムプリンもあの『遠征』には参加していたような気がする。
あれ? これだけだっけ、もっといたような気もするが
「バベル、お前なんかイメチェンした? そこはかとなく似合ってないぞ」
カイが軽口を叩く。
彼はこういう距離の詰め方をするんだったと僕は苦笑する。
「イメチェンしました。僕たちはこのまま丘を越えるつもりです。どうしますか?」
「えっ! また!?」
ボムボムプリンが悲鳴に近い声をあげる。
「行く!」
「是非もなく!」
カイとオマールは即答する。
ボムボムプリンは信じられないような顔をする。
そんなこと気にしていないような素振りのカイは
「このままおめおめと逃げ出すのは男が廃る! …丘を越えた先にある古びた教会がある。そこがセーフティーエリアだ! そこに逃げ込もう!」
「了解! このまま突っ切ります!」
僕たちは駆け出した。




