死に戻れる彼岸花
ユダがいいタイミングで差し込んできた。
いいタイミングすぎてマリアの顔が怖くなっている。
二人は仲が悪い。
マリアは一方的にユダを嫌悪し、ユダもマリアのことをうざったく感じているようだ。
僕としては藪蛇をつつく必要はないため触れはしない。
ユダの発言の通り、のんびりと準備をしていたのは調合や装備の点検をするためだけではなく時間を潰すことが大きな目的だった。
月が夜空の一番上にくる時間帯
『死に戻りの樹海』の丁度中心付近にある『死に戻りの湖』で赤と白に輝き咲く花
『死に戻れる彼岸花』を手に入れる必要があったからだ。
「もうそんな時間か。ここから遠いのか?」
「近い。だが花が咲く時間が短くてな…急いだほうがいいぞ」
ユダが急かす。マリアは立ち上がり、身支度を始めている。
「次は冥界か…」
僕は気怠そうにぼそりと呟く。
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「きれい…」
マリアがうっとりとため息を漏らす。
朧げに輝く月が照らす湖のほとりに僕たちは佇んでいた。
湖面は波紋一つなく、月と星の光で煌めいていた。
そこだけ現実から切り取られ、近づくことを許さない雰囲気を醸す。
僕もあまりの神秘的な風景にしばし心を奪われる。
「兄弟、反対側にあるぞ」
ユダは情緒を知らないようだ。
どこまでも現実主義だなと苦笑する。
ユダが示した先に『死に戻れる彼岸花』があった。
その花は月明りに照らされ、白と赤の花びらがくっきりと映し出されている。
それはまるで夜に輝く星のようでもあった。
「これが『死に戻れる彼岸花』ですね。…これもきれいです」
マリアは嬉しそうにその花に駆け寄る。
マリアも女の子であるからこういうロマンティックなのが好きなのか。
有難いことに『死に戻れる彼岸花』は大量に咲いていたため摘むことに罪悪感が少なく済む。
「これで本当に行けるのか?」
「兄弟、疑う気持ちもわかる。だが人の助言は素直に受け取らないとな」
ユダはニヤニヤと笑う。
「いいか、兄弟。まずは赤い花弁を食べるんだ。白じゃないぞ。白を食べると本当にお陀仏だ」
僕とマリアはお互い意を決するように見つめ合い、『死に戻れる彼岸花』の赤い花びらをむしり、二人同時に一口で食べる。
「うぅ!」
「ぐぅあ!」
口に放り込んだ瞬間、意識が急激に遠のく。
そのまま抵抗感もなく地面に倒れこむ。マリアも地面に倒れている。
意識が闇に包まれる前に
「ようこそ、冥界へ」
ユダの芝居かがった声が遠くに聞こえた。




