讃美歌はもう歌われない
残酷な描写アリです。
「死にたくないか…。そうだなお前の死に意味なんてない」
アフロディーテは助かると思ったのか激しく首を振りながら同意した。
「ええ! 意味なんてないわ!」
「そうだ、意味がない。お前の死には意味がない。意味も大儀も正義もない。あるのはただ一つ…」
バベル様は淡々と話す。アフロディーテは不穏な空気を感じ取っているのか顔が強張り始める。
「これは…復讐だ。俺の、俺のための、俺による、復讐だ。そこに意味も大儀も正義もない。お前の死は何の意味もなく! 虫けらのように! 踏みつぶされる! ただそれだけだ!」
バベル様は言い放つとアフロディーテの髪を無造作に掴む。アフロディーテは悲鳴をあげる。
バベル様は気にせずアフロディーテの頭を後ろに反らせる。アフロディーテは苦痛で顔が歪む。
バベル様の兜がバリバリと裂け始め、耳元までバックリと真っ赤な口が開く。
「ひぃ…!」
その異様な姿にアフロディーテはか細い悲鳴をあげる。
「いい事を思いついた…あの人の顔を返してもらうぞ」
アフロディーテは意味が分からず涙目で首を振っている。
バベル様は『退魔の剣』をジリジリと焦らすようにアフロディーテの顔に近づける。
アフロディーテはもがくが、剣がアフロディーテの顔に徐々に迫る。
アフロディーテの凄まじい悲鳴が響く。
「あれ? 中々上手くできないな。こうやるのか? …うん。上手くなってきた」
バベル様はその残虐な行為にどこか子供のような感覚で楽しんでいる。
アフロディーテは激しく手足を動かし抵抗するが、バベル様はまったく動じることなく作業を淡々と続けている。
アフロディーテをゴミ袋のように投げ捨てる。
吐き気が私を襲った。
アフロディーテの顔は無残に皮をはがされ、ピンク色の血にまみれた肉がぴくぴくと波打っている。
所々皮膚と毛がへばりついているのが余計無残さを醸し出す。
「ああぁ! 痛い! 熱い! ああ! 私の、顔が! 顔が!」
アフロディーテは苦痛と絶望で見悶える。
その時アフロディーテの姿が急激に変化していった。
アフロディーテの背が小さく丸まっていく。髪も瑞々しい黒髪から焦げてパサついている茶色になっていく。豊かな胸は小さく平らになる。
そこにいるのは美の女神ではなくみすぼらしい小さく痩せこけた老女であった。
その変化を見て、バベル様は高らかに笑った。
「アッハハハハッハハハ! そうか『魔法の宝帯』で自分の姿を変えていたのか! 元の姿は美しくないから!」
アフロディーテは嗚咽を吐いていた。
どんな表情をしているのか血と皮膚の残骸でそれはわからなかった。
バベル様はピタリと高笑いをやめる。
「だが俺は…醜いとは思わないぞ。むしろ顔の皮を剥いでよかったじゃないか! 美しいも、醜いも、皮一枚めくればそこには!…違いなんてない。みんな平等…なのに! みんな! 馬鹿みたいに! 気にする!…お前はようやく本当にありのままの自分を手に入れた。手に入れたんだ、アハっ、アハハハハハハハ!」
バベル様は狂ったように笑う。
アフロディーテは這いずり逃れようとするが、その足をバベル様は力いっぱい踏みつける。
アフロディーテは苦痛の悲鳴を漏らす。
バベル様はアフロディーテの顎を掴み力任せに背中へと反らせる。
アフロディーテは鼻の抜けたような悲鳴をあげる。
バベル様は『退魔の剣』をアフロディーテの大きく広げた口に近づける。
バベル様はゆっくりと剣をアフロディーテの口の中へと入れていく。
アフロディーテは必死に抵抗するが何の足しにもならなかった。
「あ、ああ…ああ! …あああ!…あ、あああ…」
人が出せる声とは思えない絶叫が辺り一面響く。それも長くは続かずすぐに途切れる。
ただアフロディーテの身体は痙攣していた。
私は見ていられず目を背けた。
まだ続いているのか肉が、骨が無理やり砕かれる音が聞こえる。
「『魔を退く閃光』」
バベル様の呟く声と同時に爆発音が轟く。
私は視線を戻す。アフロディーテは爆散したのか肉片一つなかった。
「…満足ですか?」
私はバベル様に向かって聞く。
「…」
バベル様の呟きは聞き取れなかった。
鎧はもうバベル様を包んではいなかった。
バベル様の表情は夕日に照らされ見え辛い。
夕日だけではないかもしれないとぼやけた視界に気づいた。




