憎悪は呪い ~さらば与えん~
参考にしている程度で、私個人特定の宗教への批判、擁護は一切意図しておりませんので、この点に関しましてはご理解をお願いいたします。
「兄弟、ようやく会えたな」
その部屋は明かり一つない真っ暗な部屋であった。
しかし不思議なことに部屋の中がくっきりと見える。
四方の壁は瘴気に当てられたのかクリームのようにドロドロに溶けている。
中央には漆黒の鎧が鎮座している。
「やっぱり鎧じゃないか」
「兄弟、化け物か何かがいるとでも? 心配するな噛みつきはしない」
声は鎧から響いてきた。
「…これを着ればいいのか?」
「ああ、それでいい」
恐る恐る鎧に手を伸ばす。
指先が鎧に触れた。
拍子抜けするくらいに何も起こらなかった。
「ハハハハハッハ…兄弟、呪いでもかけられるとでも思ったか? 残念、そんな能力はない」
声は愉快そうであった。
頬を赤らめながら鎧を着け始める。
ちらりと後ろを見る
マリアは少し離れたところでずっと俯き黙っている。
当然だが、あれからマリアと会話していない。
ジワリとした胸の痛みを感じながら鎧を着けるのを続ける。
不思議だ、まるで僕の身体に合うように最初から作れているみたいであった。
兜以外を着け終えたその瞬間
「ぐああっ! 何だ…これはっ!?」
信じ難いことに鎧が身体に喰いこんだ。
「バベル様に何をしたのですか!?」
「兄弟、そういえば言ってなかったな。その鎧は使用者の魂と俺の魂を同調させるために肉体へと喰いこむ…大丈夫、痛みはほんの一瞬だ」
「どう…ちょう?」
「それは感情、特に名前の通り憎悪を糧に使用者が望む力を、より効率的に引き出し与えるために必要なことだ。…一つ難点なのは鎧を脱ぐのが大変だ。まあ、そんなこと気にしないか」
あまりの苦痛に地面へ倒れこむ。
すかさずマリアは僕に駆け寄り心配そうに背中をさする。
「バベル様! 本当に大丈夫なのですか!?」
「おいおい、俺を信用しろよ。女、俺のことを嫌っているのはわかるが、そんな態度をとられると傷つくぜ」
声はわざとらしく拗ねたような声を出す。
「…バベル様にあのようなことをさせたあなたは嫌いです」
マリアが力強く言い放った。
声はつまらなそうに鼻を鳴らす。
違うよ、あれは僕の意思でやったことだ。
言葉にしたかったが、苦痛のためうめき声しか出なかった。
マリアがますます心配そうな表情をする。
しかしその苦痛も僕の身体に溶け込んだのかだんだん薄らいできた。
僕はマリアに身体を支えられながら立ち上がる。
その際マリアの顔をチラリと覗き見る。
マリアの目は涙のせいで真っ赤でありそして瞳は悲しみに包まれていた。
僕の瞳には何が映し出されていたのだろうか、ふとそう思ってしまった。
「兄弟、同調は無事終わったな」
声が僕の胸の辺りから発せられた。
恐らくこれが同調の結果だろう。
声と僕は一体となったようだ。
マリアは唇をかんでいた。
「ハハハ、やはり兄弟、俺たちは波長が随分合うようだ。こんなに心地の良いことはなかったぞ」
声は本当に心地よいのか、うっとりとしたような声を出す。
「…お前、名前は何だ」
僕は声に聞いた。
いつまでも名前がないのはどうにも呼びにくくて仕方がない。
声はなぜかしばらく黙っていた。
「名前? ああ、名前か。久しく名前を聞かれたことがなくてな。本当に久しぶりだ…名前はユダだ」
ユダと名乗る声は懐かしそうに呟く。
「ユダ?」
マリアが反応する。
「知っているのか?」
「ユダは、確か…遥か昔、神がまだ神となる前の時代、神とともに戦ったと聞きます。神に味方していたあなたがなぜこんなところに?」
そんな奴がこんなところになぜ閉じ込められているのか。
「ほおー 女、よく俺のことを知っているな。だが一部分だけだ。俺は裏切られたのさ、神に…」
ユダの声がかすかに震える。
「神に、俺は裏切られたのさ。許せない、ああ許せないさ。兄弟、俺とお前の悲願はようやく果たすことができる。おしゃべりはお終いだ。アフロディーテがここに向かっている…さあ、兄弟、まずは奴を血祭りにあげようか」




