憎悪は呪い ~門を叩け~
扉から背を向ける。
マリアの顔がほころぶ。
ふらついているのかマリアが肩を貸そうとするが、それを無視して歩き続ける。
マリアが心配そうに後をついてくる。
ふらふらと僕は魂が抜けたように歩いた。
あの小さい男の子が、真っ黒な影たちが、脳裏から離れない。
あの後どうなったのか知っている。
弱ければ奪われる。臆病ならなおさらだ。
もうあんな思いは嫌だ。
アドルメアと闘った広場へと出た。
まだシスターたちは呆然と座り込んでいる。
所詮ゲームだ、自律AIでそれらしく出来ているが生きている人間じゃない。
近くにいた体育座りをしているシスターに近づいていく。
「バベル様、何をしてらっしゃるのですか?」
マリアが恐る恐る聞いてくる。
僕の行動の意図が本当にわかっていないのか、いやわかっているが受け入れたくないのか、どちらにせよどうでもいいことだ。
名前も知らないシスターの手を掴み、立ち上がらせる。手を引き戻ろうとすると
「ま、待ってください。バベル様、いけません! …バベル様!」
マリアが声を荒げる。その声を無視して歩き続ける。
マリアが両手を横に広げ、進行方向に立ち塞がる。
「だめです、それだけはだめです。もっと、別の…方法があるはずです。あの声に従ってはいけません」
「じゃあ別の方法ってなんだよ!」
鬱屈とした感情を吐き出すように怒鳴った。マリアは目を見開き驚いた。
マリアは僕のことを思って言っているのかもしれないが、具体的な打開策を言っているわけではない。
彼女は倫理観でやめろと言っているだけだ。
マリアはなおも続けようとするが、僕は彼女が口を開く前に押しのけ先へと進む。
マリアは僕にしがみついて止めようとする。そんなマリアを乱暴に引き剥がす。
「きゃあ!」
マリアは地面に倒れこむが、振り返りもせず『憎悪の間』へ向かう。
到着し、中央の円座にシスターを連れていく。
シスターは朧気な意識ででも察したのか、怯え抵抗し始めた。
そんな彼女を力づくで黙らせ、円座に座らせる。
「兄弟、その柱にかかっている鎖で、その哀れな子羊を縛れ」
言われた通りにシスターの両手に鎖を巻き付ける。
シスターは絶叫をあげる。
マリアが追いついた。マリアの顔に擦り傷があった
彼女を一瞥して僕は“子羊”へと向きなおる。
「兄弟、円座の前にレバーがあるだろう。あとはそれを引っ張るだけだ」
その声は愉快に笑う。
レバーに手をかける。
「やめてください、バベル様。バベル様は…こんなことできないはずです」
マリアは今にも泣きだしそうな声だった。
僕は振り返りもせずに言い放つ。
「お前に…僕の…何が分かる?」
そう言い放ち、レバーを力いっぱい引っ張る。
真っ黒な炎がシスターの内側から燃え盛る。
炎に包まれたシスターはあまりの苦痛に獣のような断末魔をあげている。
その声は鼓膜を引き裂き乱暴に頭の中へ侵入していく。
そして頭蓋内にいつまでもいつまでもこだまする。
グニャリと視界が折れ曲がる。
嗚咽がどこからともなく聞こえてくる。
そこで気付いた
自分がやったことの意味を。
これはゲームだ。
クリアのために必要なんだ。
何度も何度も言い聞かせる。
消し炭となった断末魔はずっと耳から離れなることはなかった。




