設定は済みましたか?
ようこそ、『Play Scanning Brain』、通称PSBへ。
このPSBは皆さまの脳へと本体に付属されている特殊な電極を介し間接的にあなたの脳へと電気信号を送り、大脳辺縁系と言われる領域の神経回路を刺激することであなたをゲームの世界へと招待いたします。
現行のVR(Virtual-Reality)では再現することができなかった視覚や匂い、音、味、肌触りと現実との一切の相違なく五感の全てがリアルに体感できます。
PSBの世界に入る前に初期設定の登録をお願い致します。
まずはご自身のプロフィールを作成しましょう。
個人が特定されるようなプライバシーな情報に関することは極力載せないほうがいいでしょう
……プロフィールを作成できましたね。
次は言語設定です……日本語で登録します。
次はインターネット環境の設定です……
では次は……。
長らくお疲れ様でした。
これで初期設定は終わりです。
初期設定は起動時のホーム画面でいつでも変更可能です。
さあ! これからPSBの世界へと向かいます。
どうぞ心ゆくまでお楽しみください。
スマートフォンによる所謂『ゲーム機離れ』とヒット作に恵まれずその経営が斜陽気味だった大手ゲーム会社の一つ『Play Scanning』は近年稀にみる大不況により決定的な打撃を受け倒産寸前まで追い込まれた。
そのため社命を賭けた商品開発が始まった。
元々『Play Scanning』はVR専門でマーケットを展開していたためその分野で技術的に他ゲーム会社の追随を許していなかった。
確かな技術と実績を信じて血の滲む努力をした結果、『Play scanning brain』 通称PSBは産声を上げた。
従来のVRの概念をことごとく破壊する斬新性、機能、デザインの数々に人々は魅了され、『Play scanning』は経営を立て直すだけに済まず全盛期をはるかに超える収益を上げることに成功した。
PSBの発売とともに数々のゲームソフトも販売された。
その中の一つ、知る人ぞ知るマイナーゲーム会社『レッドプロ』が提供する『ジ・ハード~咎人たちの聖戦~』は一大ムーブメントを起こすほど驚異的な人気を誇った。
そのゲームの特徴を一言で言い表すなら病的なまでの難易度と自由度であった。
このゲームが始まる前に真っ先にプレイヤーが行うことはアバター、つまりもう一人の自分である『咎人』の作成である。
『咎人』は目や耳、鼻の形や髪型は勿論のこと爪の長さや皴の数や深さ、果ては陰部の形までこんなところまで必要なのかと思うくらい身体の細部まで設定することができる。
だからアニメや漫画に出てくるキャラクターやテレビの有名人そっくりに自分のアバターを作ることが可能だ。
しかしここで注意してほしいことがある。
それは一回ゲームオーバーになってしまったら同じ『咎人』でコンテニューはできない。
ゲームオーバーになった『咎人』はその場に留まり、二度と使用はできない。
プレイヤーはまた一から新しく『咎人』を作成しなければならないが、この時前に使用していた『咎人』と同じ外見を作ることはできない。
だからこそ不必要と思われていた細部へのこだわりがここで活きるということをプレイヤーはうんざりするほど思い知らされる。
所持していた装備やアイテムはゲームオーバーになるとどうなるのかというとゲームオーバーになった『咎人』が所有しており、回収したいならばその死体の元まで向かわなければならないがお薦めしない。
なぜなら回収するために危険を冒しても死体のところに到着する前にゲームオーバーになるか到着しても他の『咎人』にすでに回収されているかのどちらかになるからだ。
実際、一回でもこういうことを経験すると二度と回収する気は起きないだろう。
死ぬとすべてを一瞬で失くすことになる、ゆえにこのゲームはプレイヤーの間で『死にゲー』と揶揄されている。
しかしそれを補うに足る自由度がこのゲームにはある。
一つ、スキルにより自分の想像通りのアイテムを作ることが出来る。
ただし死者蘇生のようなものや戦闘機などの兵器は不可能。
チートでそういうアイテムを作った『咎人』がいたが、ご丁寧に運営側から強制的にシャットアウトとアカウント剥奪で二度とログインできなくなる。
一つ、フィールド、面積はだいたい日本列島と同じくらいで目に入る場所はすべて行くことが可能。
絶対にこんなところにいかないところの一つ一つの植物まで詳細に作り込んでいるのを見た時は舌を巻いた。
一つ、広大な世界を自由奔放に冒険するのもあり、NPC つまりNon Player Characterをまとめ上げ、自分の村や街、果ては国を作ることもあり、ひたすらプレイヤーキルするのもあり、のんびりスローライフも送るのもありなどなど目標に縛られないこの圧倒的な自由度があるからこそ爆発的に人気になった。
目標に縛られない。
その表現を使ったということはこのゲームには一応目標がある。
その目標とはプレイヤーがこの世界に入るとき短いプロローグが流れるのだが、そこに示されている。
これがこのゲームの最終目標である。
販売初期のプレイヤー数は五百万人以上いた。
しかしあまりの難易度に次々にやめていくプレイヤーが続出し、三年後には一万人を下回るようになった。この段階ですら神の一柱の撃破報告はない。
僕はこの閉塞感漂う時期から参入した。
ある程度の情報は入ってきており、最初期のプレイヤーよりは優位に立てると思ったからだ。
現実はそんな上手くいくことはないことを散々に思い知らされるのはそんなに遅くはなかった。
さらに一年後、現在プレイヤー数は千人を下回っており、一日一日過ぎるたびにその数を減少している。
それでも未だに神の撃破報告はない。