潜入 注意事項 2
マリアが言っていた通り、裏手の入り口はほとんど使用されていなかった。
マリア曰く
モンスターは地下に行かなければいないらしい。
だからシスターたちは『憎悪は呪い』に鎮魂の祈りや自らをささげる以外は地下には近寄らない。
その時間帯さえ把握していればシスターたちに見つからずに進むことが出来る。
「こちらです」
マリアが小声で案内する。
マリアがいつここで働いていたのかわからないがその記憶は確かなものであった。
その証拠に同じような通路が続く中、マリアの歩みに迷いはなかった。
正直マリアには驚いている。
コロシアムではただ怯えて震えていたのに、今は自分から先頭に立ちしっかりとした足取りで導いている。
何がそこまで彼女を変えたのだろうか。
「この階段から地下へといけます」
マリアが階段を指さした。
あと少しで念願のものが手に入る。気が逸り先へと進もうとすると
「気を付けてください。この階段を降りた先からモンスターが出現してきます。ここで働くシスターはアフロディーテの加護が込められたお守りが配られ、それによってモンスターに襲われることは…なくはなかったですけどそれでも襲われる頻度は少なかったと思います」
なくはないとかアフロディーテの加護は大したことないのでは。
いやそもそも加護ということ自体嘘という可能性もあっただろう。
人の命を何とも思わない神がモンスターに襲われないようにお守りを配ること自体おかしい。
なぜ、そんなものを与えたのか、疑問に思うことはあるが今はどうでもいい。
なぜなら僕はそんなもの持っていないから関係ない。
いつも通りモンスターに襲われる、それでいい。
階段はらせん状になっており、かなり長い時間、階段を降りて地下へと到達した。
その時、空気が一変した。
空気が重い、呼吸はできているのに息苦しい。
酸素が急に薄くなったような気もする。
マリアも肩で息をしているように見える。
身体も重くなってきた。気のせいだ、そう思ってもなかなか歩き始められない。
「やはり…毎回地下は息苦しいですね…」
マリアは何とか絞り出すように呟いた。
「毎回…こんな感じなのか?」
「ええ、そうです。だから私たちは…必要な時以外はここに…こないようにしていました」
確かに、こんなにきついなら滅多に地下へとはこないだろう。
ということは多少暴れても気付かれることはないだろう。
「それは有難いな」
軽口を叩くがしかし如何せん未だ歩き始めてはいない。
落ち着け、地下の独特の雰囲気に当てられているだけだ。
悪いものを吐き出すように深呼吸を繰り返す。
だんだん息苦しさが消えていく。僕は一歩足を前へと出す。
二歩目、三歩目と次々と前へと進んでいく。
うん、大丈夫、僕は大丈夫、いつもの調子を取り戻していく。
マリアのほうへと振り向く。マリアは胸に手を当てて息を整えている。
マリアは経験者だ、手助けしなくても大丈夫だろう。
「『憎悪は呪い』は地下の奥深くにあります。ここで出現するモンスターで警戒しなくてはいけないのはアドルメアです」
「アドルメア?」
聞いたことのないモンスターの名前が出た。ダンジョン固有のモンスターなのか?
「オーガの上位種です。オーガ同様巨大な体躯で知能は低いですが、低級魔法を使用してきます。アドルメアはこの地下を徘徊しており、アフロディーテの加護を持っていても関係なく襲ってきます」
「詳しいな。アドルメアに会ったことはあるのか?」
「いえ、幸運なことに私は出会ったことがありません。お務めを果たすときの注意事項として他の方々から教えてもらいました」
犠牲になった者たちも多かったのだろう。
「会ったことがないということは、アドルメアと遭遇しないルートがあるのか?」
「それはありません。遭遇するかどうかは運次第です」
「ふん…当たるも八卦当たらぬも八卦か」
マリアは、首をかしげていた。
この世界ではこの言葉はないようだし、こういう使い方は正しくない。
「…まあ、先に進むのは変わらない。どんな障壁が待っていようが構いやしないさ」
「それでしたら急いだほうがよろしいかもしれません。そろそろ祈りをささげる時間が近づいていると思います」
ならば急がなくてはいけない。 マリアの先導とともに僕は油断なく剣を抜き構える。




