セーフティーエリアでの会話
重たい話が続いたので今回は軽めで。
でも重たさが隠し切れない。
マリアだったけ
彼女は物珍しそうにセーフティーエリア内を歩き回っている。
その様子をちらちら見ながら荷物の整理をする。
大剣を失くしてしまったのは正直痛かった。
使用していたのはわずかな期間だったが愛着がわき、とても悲しい。
別の武器を用意しなければと泣く泣く大きなアイテムボックスを開く。
セーフティーエリア内にあるアイテムボックスは、アイテムを預ければ世界各地にあるセーフティーエリアのアイテムボックスと共有できる便利システムの一つ。(無論他人のとは共有しない)
アイテムポーチは数に制限があり、セーフティーエリアにあるアイテムボックスにいらないもの、旅の目的に沿わないものはここに入れ整理する必要がある。
「バベル様、ここは不思議な場所ですね!」
突然マリアの顔が間近に迫る。
「うぃ!」
不意を突かれ驚いて変な声が出てしまう。
マリアはびっくりした顔をしたがそれも一瞬ニコニコと笑う。
「ふふ、驚かせてしまって申し訳ありません。…案外かわいいところあるんですね」
マリアは揶揄うような笑みを浮かべる。ほんのり顔を赤くして言い訳を述べる。
「突然、声かけるからだ。それに驚いていない!」
我ながら苦しい言い訳。
マリアはわかっていますという顔をした。
「で、何の用?」
マリアがただ驚かせに来たわけではないことを期待した。
「ああ、そうでした。バベル様がおしゃっていたとおり何時間も経過しているのにモンスターや追手がこの部屋にやってこない。この部屋で休憩するとバベル様や私の怪我が全快する。バベル様が帰ると言って霧のように姿を消し、突然霧のようにまた現れました。ここは神秘的な場所ですね!」
マリアは目を輝かせながら興味津々といった顔をしていた。
しかし僕もどうしてセーフティーエリアにモンスターがやってこない理由はわからない。
そういう仕様だからと思って深くは考えたことはなかった。
確かにこの世界の住人にとってモンスターがこない、それだけで何よりも信じ難いことなのだろう。
怪我が全快するのも同じく。
ログアウトした後はどうなるかわからなかったが、マリアから見たら僕は突然消え、突然現れるように見えるのか。
何と説明したらいいのか迷っていると、マリアは期待のこもった目を輝かせている。
いや、期待されても。
「うーん、何か魔物除けのようなものが、あるのかな。全快するのは神秘的な力が働いている、のかな。僕が消えたり現れたりするのは、世界各地にあるセーフティーエリアへと移動しているから、かな」
目が挙動不審の苦しい説明だ。しかしマリアは納得したような顔をした。
「なるほど! 咎人様は私たちとは違う存在ですからそのようなことができるのですね、流石です」
これからは咎人ということを前面に出せばある程度まで押し通すことができることが分かった。
マリアはまたセーフティーエリア内を歩き回ろうとしていた。そんなマリアを僕は引き留めた。
「待って。マリアに一つ聞きたいことがある」
「なんでしょうか? 私にわかることなら何でもお答えいたします」
マリアはグッと両こぶしを握り、質問を全力で待ち構えていた。そこまでしなくてもいいんだけど。
「『憎悪の鎧』。それはここにあるんだよね?」
その言葉が出た瞬間、さっきまでのやる気満々のマリアの顔からみるみる血の気が引いていった。
マリアが答えようとするが、唇が震えるだけで声にならない。
しかし、その言葉にならない回答により確信した。やはりここにある。
「どこにある?」
さらに追及する。マリアは目をそらす。僕はなるべく優しくマリアの肩をつかみ諭すように
「マリア、大事なことなんだ。アフロディーテを倒せるかもしれない。協力して、お願い」
しばらく目を逸らしていたマリアは意を決したような顔をした。
「『憎悪の鎧』ではなく『憎悪は呪い』だと思います。それは『アクレシア大聖堂』の、地下深くに封印されています」
「『憎悪は呪い』? 鎧じゃないの? この城にはないのか?」
「はい。アフロディーテはあれを忌み嫌っていました。私も一度大聖堂で働く機会がありました。大聖堂で働くシスターたちは、『憎悪は呪い』の鎮魂という役目もありました」
マリアはぽつりぽつりと苦しそうに話し始めた。
「私たちの役目は、その身を『憎悪は呪い』に捧げることです。それは突然決まります。数は、一人の時もあれば、十数人の時もあります。全てアフロディーテが決めます。決める条件は知りません。私が働いていた時は一人でした。それに選ばれた子は鉄の籠に入れられ、生きたまま火あぶりにされます」
そこでマリアは言葉を切る。
その時の光景を思い浮かべているのか、肩は小刻みに震えていた。
「うまく言えませんが、あれは邪悪で醜悪なものです。私はあれがバベル様のお力になるとは思いません。むしろ災いとなると思います」
マリアは僕に『憎悪は呪い』を諦めるように訴える。その目には恐怖がありありと映っていた。
「それでも、僕には必要だ」
マリアの目をまっすぐ見据える。
マリアの目はだめだと訴える。
僕は目をそらさない。
しばらくその状態が続いたがとうとうマリアが折れた。
「…わかりました。そこまでお心が決まっているのなら、私にはどうしようもありません」
マリアは半ば呆れていた。
「ありがとう…大聖堂に案内してくれ」




