前座
「お前がアフロディーテだな。上から虐殺を楽しむとは、ずいぶんいい趣味をお持ちのようで」
「ふふ、おもちゃが私たち神を楽しませるのは当然の義務よ。むしろ最高の名誉だと思ってくれなきゃ」
アフロディーテはさも当然といった態度で言い放つ。
私たちがされたことは名誉あること?
決してそんなことはない。あれに名誉もクソもない、虫けらのような死であった。
「ふ、ふざけないで! 私たちはあなたのおもちゃじゃない! 痛みも苦痛も感じる、生きているの! 私たちは生きているの!」
私は怒りのままにアフロディーテに向かって叫ぶ。
アフロディーテはやれやれといった感じでため息をついた。
「まったく、これだから…あなたたち虫けらはちょっとしたことですぐ死んでしまう。そんな生き物を私たちがわざわざ飼ってあげているのだからその命、私たちのためにささげるのが当たり前でしょ?」
アフロディーテは心底どうでもいい顔をしていた。
先ほどまでの怒りが急激にしぼんでいくのを感じる。
彼女には何を言っても響かない。
それはそうだ、相手は神なのだから。
俯いていたら、バベル様が口を開いた。
「…その姿は?」
「はあ?」
アフロディーテは思いがけない質問に素っ頓狂な声を出した。
「その姿は…何だと聞いているんだ」
バベル様は静かにそして怒りを込めてアフロディーテに尋ねた。
しばしの逡巡の後、アフロディーテは得心したのか
「ああ、私の姿は見ている者にとって最も美しい姿を見せるの。あなたが何を見ているのかわからないけどそんなに見つめてしまうほどに美しいものが見えているのかしら」
胸に手を当てながら自慢げに言った。
「…そうか、わかった。お前如きがその姿をしている。それだけで不愉快だ」
バベル様は大剣を引き抜く。
「ふん、言うじゃない、咎人! ほんの少し虫けらより丈夫なだけで大口をたたくなんて。お仕置きが必要ね。イカロス! こっちおいで」
イカロスと呼ばれたものがアフロディーテの側に飛んできた。あの醜い怪鳥であった。
「ああ、アリア、なんてひどい…」
怪鳥はアリアの頭を咥えていた。
アリアの両眼はえぐられ、歯は乱暴に引き抜かれていた。
あまりのアリアの無残な姿に私は泣き崩れてしまった。
「ごめんね、アリア…ごめんね」
何度も何度も項垂れるように謝った。
「ふふ、この子はね、おバカなの。ねえ、聞いて…蝋の翼を作って、蝋の翼よ! 父さまの居城に行こうとしたの。当然父さまは怒り狂い、この子に雷を落としたの。それでね、この子は頭以外の全身が焼けただれたの。かわいそうと思った健気な私はこの子を助けようとしたの。まあ、ただ頭を化けガラスにくっつけただけだから、可哀そうにおつむのほうがイカれちゃったの」
アフロディーテはさも楽しそうに笑顔を見せる。
私は背筋が凍ってしまう。
本当に人間は神にとっておもちゃなのだ、面白ければそれでいいのだ、そういうことを否が応でも理解してしまった。
「で? …そのびっくり鳥人間を呼んでどうするんだ?」
バベル様は眉一つ動かさなかった。
「つまんない男ねー、少しはビックリしたらー。いらいらするわね。あなたみたいな奴を私が直々に相手すると思う? イカロス! あいつをできる限り、無残に、殺してやって!」
「かー! 了解! 了解! あいつ! 殺す! 無残に!」
イカロスは翼を広げ、すさまじい速度でバベル様に迫る。
バベル様は冷静に軌道を読み、イカロスが突撃する瞬間にその頭へと大振りの斬撃を放つ。




