燻ぶる衝動
突然全身の筋肉がビクンっと波打つ。
その勢いで重たい瞼を薄く開けると眩さに目がくらむ。
それとともに鉛のような気怠さが全身を引き摺るように全身を包み込んでいることを認識する。
しかしその気怠さは非常に心地よく抗い難い。
だからこの世から二度寝がなくならないと何度も知らしめるには十分だった。
後ろ髪を断ち切るようにのっそりと上体を起こす。
どれかどの部位かわからないくらい粉砕されている骨片の数々。
首と胴が無造作に離れているボアウルフの死骸。
はらわたを引き裂かれ内臓が飛び出ているリザードマンの死骸。
眩さになれた景色は血と臓物が広がる燦燦たる光景であった。
こんな状況でも人は寝られるのか、自分の神経の図太さに呆れてしまう。
呆れると同時に己の迂闊さを猛省する。
フィールドのど真ん中で吞気に昼寝するなど自殺行為そのものである。
猛省するとともに段々と思い出してきた。
道中、大量の魔物の待ち伏せに遭った。
大量、といっても問題なく対処できる程度の数だ。
この状況を鑑みるに全ての魔物を斬り伏せた後、そのまま失神するように寝てしまったようだ。
疲れているな、ふうと大きなため息を吐く。
くすぶっていた衝動はほんの少しの起爆剤で前へ、前へと進ませる。
しかしそれは諸刃の剣だ。
死屍累々の景色をまだぼんやりする意識で眺める。
その手痛い対価を払ったということを徐々に実感し始める。
肩を落としまた大きなため息を吐く。
こんな見え透いた罠に引っかかるとは。
こんな詰らないところで死んでたまるか。
眩く光る太陽に手を翳す。
一寸先も見えぬ暗闇でこの指の隙間ほどの光明が見えたのだ。
忘れた頃に焦りが心の片隅でニョキリとタケノコのように顔を出してくる。
それはふてぶてしくさらに我が物顔で大きく姿を晒していく。
吐き出すように今度はため息ではなく勢いよく息を吐く。
それによって目の前にあった骨片は塵となり空へと飛んでいく。
どこまでもどこまでも高く舞い上がり、そしてついに空の青さに飲み込まれてしまう。
きっとこれは誰がどう見ても意味のないことはわかっている。
けれど、どうしてもやめることはできなかった。
燻ぶっていた衝動は身を焦がし、過程はどうあれここまで僕を導いた。
この衝動こそが理由となる。
もう消え失せた塵の行方を追うことはなかった。