前夜祭前日
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アーサーは私たちを呼び作戦の説明を始めた。
作戦の内容は単純明快だった。
まずヘパイストスが敵本隊にゲリラ戦法で撹乱する。
当然敵はこれを無視することはできず、ある程度兵力を割かねばならない。
ある程度兵力が減少したところで敵本隊をこちらが全軍をもって叩く。
ざっくり大部分を端折るとそういう作戦だ。
もちろん王国には最小限の守備隊を置く。
私は当然敵本隊を叩く側だと思っていたのに…まさかの居残りだった。
私の実力は分かっているはずだ。なのに…
誰だ。誰が私を居残りにした。
しかしそんなこと考えなくても分かる。
一言申さねばと立ち上がろうとしたその時…
「ということで明日は、祭りです!!」
アーサーの作戦の説明が終わると同時に、バンッと勢いよく机を叩くメアリー。
それによって私の出鼻はくじかれ、代わりになぜという空気が部屋を包む。
しかし彼女は少しも気にしない。
ルンルンと今にも小躍りしそうな彼女に助け舟を出すようにアーサーが言った。
「…ずっと訓練だとかで休む暇がなかったからね。決戦前夜だからこそ息抜きが必要だと判断した。前夜祭というべきか、まあ楽しんでくれ…」
「新米たちも十分役に立つようになった。中々に感慨深い」
しみじみとドラグナは頷いている。
最初からずっと付きっ切りで鍛えていた彼にとっては何か思うところがあるようだ。
そのまま解散の流れとなったとき
「祭りか…」
いまいち乗り気になれない私にそっとメアリーはちょいちょいと手招きする。
そのメアリーの隣にいつの間にかマリアがちょこんと座っていた。
書類の山を崩さぬように移動するが、いつまでこれはあるのだろうか。
減ってはいないどころか増えているようにさえ思える。
「何の用?」
「不機嫌そうね」
メアリーはにこりと笑う。
分かっているくせに私は抗議の意味を含めて鼻を鳴らす。
そんな私を見てマリアは苦笑している。
「あなたも居残りでしょ? 憤りはないの?」
「ないわ」
メアリーは即答する。
その速さに一瞬、私は言葉に詰まる。
メアリーとドラグナはアーサーに全幅の信頼を置いている。
だからアーサーの采配に彼女は何も言わない。
マリアに助太刀を頼もうとちらりと伺うが、彼女は感服しているような眼差しで彼女を見ている。
あなたも居残りって言われて浮かない顔していたのにと地団太を踏みそうになってしまった。
「ふふ、へそを曲げているであろうお二人にいい話。バベル君に明日一日空けるように頼んどいたわ」
してやったりといったような顔で微笑む彼女に私はポカンとしてしまう。
それはマリアもそうで信じられないといった顔をしていた。
「だからどっちが午前・午後で回るか今ここで決めてほしいわ」
いたずらが成功したときの子供のようにニヤリと口元が歪む。
「な、なな、なん…な、なんで」
とんとん拍子で話が進み、迂闊にも情けなく舌が回らない。マ
リアは頬を赤らめ戸惑っている。
「だ・か・ら、居残りになっちゃったあなたたちのために! バベル君との半日デートを用意しました」
「デ、デ…デートぉお!?」
「デート…デート」
私は思わず大声で叫び、マリアは嬉しそうに小声で何度もその単語を唱えている。
「いいの?」
「何が!?」
私は鼻息荒くメアリーに迫るが、彼女はどこ吹く風のように私の後ろを指す。
「何?」
私とマリアが振り向くと、バベルがこちらを見ている。
「な、なに…な、何見てんのよ!!」
私はつい、手元にあった書類の山を手当たり次第に揉みくちゃに丸め、剛速球で投げる。
「な、何もしてないだろう!?」
バベルは慌ててそれを避け、部屋から逃げるように出ていった。
「あう、あう」
マリアがあまりの恥ずかしさにショートしている。
「しっかりしなさい」
ガンガンとマリアの肩を揺らす。
マリアの首が異常に前後にガクンガクンしているが、多分大丈夫だ。
そのおかげかマリアの焦点があってくる。
「さあ、やってきました! 今日も楽しくー、レッツじゃんけん!」
何が起こったのか戸惑うだけの私とマリア。
しかしそんなこと毛ほども気にしないメアリーは変に高いテンションのまま話を続ける。
「気になる彼とのデート! その先攻・後攻を決める運命の時間です! レッツ! 最初はグー!」
冷静にさせる時間を与えないメアリーの怒涛の攻めに私たちは素直に従ってしまう。
私とマリアは立ち上がり、お互い向き合い構える。
「じゃんけん! ポン!」
私はパー、マリアはグー。
やった、勝った。
「勝ったぞーー!!」
私は渾身のガッツポーズを天高く示す。
「ま、負けてしまいました」
ガックンとマリアは肩を落とす。
いつの間にか変な調子に乗せられ、私たちは楽しんでしまった。
「じゃあ、午前アルティナちゃん、午後はマリアちゃんね。…それじゃあ行きましょうか?」
メアリーはパンとスカートを払い立ち上がる。
キョトンとしている私たちにメアリーは軽く言い放つ。
「デート用の服、買いに行くわよ」
私たちはさらに首をかしげる。
そんな私たちにメアリーはため息をつく。
「もう、おめかしして会いに行った方が男は断然喜ぶわ」
そう言うや否やメアリーは私たちの手を取り、外へと連れ出しに行った。
そんな私たちをアーサーとドラグナは微笑みながら手を振って見送った。




