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咎人たちの聖戦  作者: 白騎士58
第二章 冥界に手向ける鎮魂歌
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冥界の神ハデス ~哀れな男~

 ハデスは鎖をまるで手足のように扱い移動している。

 ハデスは怒りのあまり呼吸は乱れ、肩で息をしている。


「フシュー、フシュー…お前が…お前のような…虫けらが…ペルセポネを…よくも…よくも…」


 怒りで舌がうまく回っていないようだ。

 言葉がすぐには出てこない。


「あなたは哀れな人です…あなたは望めば何でもいとも簡単に手に入ったのでしょう…でもペルセポネさんは…物じゃない! あなたを最後まで拒み、愛する人のことを最後まで忘れなかった! それがわからない…哀れな人」

「うるさい…うるさい…うるさい!」


 ハデスは怒りをむき出しに雄たけびを上げる。

 鎖はハデスの感情に呼応するように蠢めく。


 その姿はかくも恐ろしいものであるかもしれないが、事実を受け入れられないで駄々を捏ねている子供のそれにしか私の瞳には映らない。


「何度でも言います。あなたは哀れな人、可哀そうな人。結局最後まであなたは歯牙にもかけられなかった…本当に哀れな人」

「この…! 虫けらがあああ!!」


 鎖を何発も私へと矢のように突き刺す。


 ハデスはさらに追加で鎖を突き刺す。


 何発も何発も私の身体に突き刺してくる。


 そこでハデスは違和感に気が付いたようだ。


 鎖で突き刺さっているはずの私の身体がユラユラとゆらめき霧散する。


 私はハデスが近づく前に『魔法の宝帯』を発動し幻影をすでに作っていた。

 ハデスは幻影に向かって攻撃をくらわせていただけであった。


 ハデスのあまりの視界の狭さによって面白いくらいに成功した。


「なぐ…ぐぐ、ぐぐっぐ…コケにしやがって…ぐぐ…」


 ハデスは怒りのあまり言葉を忘れてしまったようだ。


 私はハデスの後方を指さした。


「後ろ見たほうがいいですよ」

「つまらん嘘を…つくな!」


 ハデスは鎖をまた私に突き刺そうとするがそれは後方から凄まじい速度でやってきた何者かに蹴り飛ばされたため叶わなかった。


 その何者かは見なくてもすぐにわかる。

 バベル様であった。


 バベル様の両腕は肘から先がなく、腹は裂かれ、そこから大量の血と腸が流れ出ていた。

 バベル様は呼吸をするのでやっという風でユラユラとふらついていた。

 どう見ても瀕死そのものだった。

 

 蹴り飛ばされたハデスはゆらりと立ち上がる。

 ハデスの兜は蹴られた衝撃でひびが入っていた。


「き、貴様…死んだはずでは…!? …まあいい。我直々に息の根を止めてやる」


 鎖はハデスの身体を這いまわりながら集まっていく。

 ハデスの頭を除く全身を鎖が隙間なく覆い尽くし鎧を形成していく。


「フフフフ…嬲り殺してやる。我が愛しのペルセポネを…傷つけた罪は重いぞ…」


 ハデスは両手を地面につけ前傾姿勢をとる。


 力を十二分に込めた時、ドンっと勢いをつけハデスはバベル様へと突進していく。


 無防備なバベル様に直撃しハデスは彼の身体を抱き地面に叩きつける。


 そのままハデスは馬乗りになりバベル様を激しく殴打する。


 その衝撃で地面はひび割れ凹んでいく。


「虫けらがっ!! 我を!! 神である我を!! コケにしやがって!! 我は!! 望めば!! 何でも手に入るのだ!! ペルセポネも!! 冥界も!! 我のものだあああ!! 我が!! 死ぬことはないのだ!!」


 殴るたびに血飛沫が飛び散り、肉は裂け、骨が砕ける。


 バベル様は全く抵抗する気配がなかった。

 助けに来るのがやっとでもう動けないんだ。


 私は短剣を手にバベル様を助けに行く。


 ハデスはこちらのことなど気にもせずバベル様を殴打し続けている。


 力いっぱい振り上げ短剣をハデスに突き刺すが鎖に弾かれる。

 何度も何度も短剣を突き刺すがハデスにはかすり傷一つつかない。


「お願い! もうやめて! もうバベル様は…きゃあ!」


 ハデスの小うるさいハエを払うようなそんな軽い攻撃でも私は吹き飛ばされてしまった。


 ハデスはそんな私に一瞥もくれずにバベル様に最後の一撃を見舞おうと腕を振り上げ力をためている。


 私は苦痛に耐えながら力の限り叫ぶ。


「お願いやめて!」

「うるさい! この虫けらの次はお前だ!」


 ハデスはそんな私の懇願を吐き捨てる。


「随分苛立たせてくれたな…これでお仕舞だ!」


 凄まじい轟音が響き渡る。


 衝撃により天高くまで土煙が舞う。


 そんな、バベル様…私はヨロヨロと立ち上がる。


 一撃でもいい、一撃でもいいから当ててから死んでやる。

 そんな覚悟でハデスに立ち向かおうとすると、ハデスはまだ馬乗りのまま動かないでいた。


 その姿勢のままハデスはピクリとも動かないでいた。


 その姿に違和感を感じるとともに、私はもしかしてと思った。


 その予感は正しかった。


 巻きあがった煙が消えるとともにどのような状況かわかるようになってきた。


 ハデスの最後の一撃はバベル様まで届くことはなかった。

 その拳は受け止められていた。


 ゆっくりとしかし着実にハデスを押しのけて立ち上がろうとしていた。

 ゆらりと上半身から異様な態勢でバベル様は起き上がる。


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