最初の邂逅
「ここかな」
人の魔力は探知できるものの、建物の入り口、特に盗賊の根城だと発見するのに労力がかかる。
どうやら、自然にできた洞窟を利用していると思われる。
調査書が曖昧なので、推測での作業となると少々気後れしてしまう。間違ったら大変なことになってしまう。
自我が無ければまだあきらめもつくが、現状でそういう失敗は避けたいところだ。
まぁ人がいるのは間違いない。人数もおおよそ調査書通りだし最初の一人で判断してしまおう。
「おじゃましまーす。」
元気よく入り口から入るのであった。
洞窟の規模はそれなりに大きいらしく、少し下に向かって一本道となっている。明かりは定点で照らしており、人が通った形跡もある。
だけど見張りもいないとかどうなってるんだろう。
魔力反応はかなり下の部分だ。しかも密集している。宴会でもしているのだろうか。
それにしてもこの洞窟、外からは分からなかったが、自然にできたような穴ではない。
壁など崩れないように加工してある。岩肌などは見えず、人工物の壁に見える。
入口が洞窟の形をした遺跡だったのかもしれない。
めったに他ごとに興味を示さないティルであったが、現状の精神状態では好奇心が勝り、壁を触ってみることにした。
「結構固め・・・崩れ落ちないように魔術が使われてるのかな。」
なにかしらの力が働いているように感じたが、断定できるものではなかった。
力技の魔術で解決してきた勇者はこういったことに疎かったのである。
ただ、触り心地は悪くはなかった。
と、気を取られていたことが影響したか。
不意に、少し体が傾く。
左腕部に軽い痛みが走る。
「え」
刹那、左手が肘から切断され下に落ちる。
と同時に、背後から凄まじい殺気とともに熱い斬撃が背中を貫いた。
常人なら即死の衝撃だが、彼女はそのまま前方に体を投げ出すように飛ぶと、地面に転がりつつ体制を整えた。
斬撃が来た方を見ると、自身の左手が地面に横たわっており、その左手に武器(刃物)を突き刺し、こちらを凝視する人間がいた。
ティルが不意打ちを食らうことなぞ、いまだかつてなかった。
魔力探知により隠れることかなわず。
そのはずだった。
口からあふれ出る血が苦く感じる。
「なるほど。それだけの傷を持ってもいまだ生命力は衰えず。化け物だな。」
男の声・・・そういうと刃物から黒炎が噴出し、ティルの左手だったものを焼きつくした。
その様子を無表情で見ていたティルは、その場で立ち上がると、男の方を見つつ口を拭った。
そして体が一瞬光ったかと思うと、傷が完治、左手も元通りとなっていた。
「そしてその再生力。確かに人が手に負える存在ではない・・・か。」
「再生力じゃないわよ。魔術よ。7級魔術の「完全回復術」よ。まぁ痛みとかは確かに勝手に縮小されるから気にはならないんだけど。」
ティルはそういうと自身の姿を今一度確認する。
「服の破損等は困る。あと、血の味もあまり好きじゃないのよね。」
「その感想は俺にとっては絶望に値するものだとわかっていってるんだよな。」
不意撃った一撃。それで人一人が倒せないほどこの男の腕が悪いわけではない。
そこから何事もなく持ち直した勇者が規格外なのだ。
「ところで・・・最近の盗賊さんは魔力を隠す術でも開発したのかな?そこだけはちょっと興味あるんだけど。」
あの程度の攻撃なら問題はない。それよりも気になるのは感知できなかったことだ。
「・・・・なるほど、魔力で感知していたという話は間違いないわけか。担がされたと思ったが、そうでもなかったということか。」
男はそういうと、大きく息を吐いて武器を握りしめる。
「ちょっと質問に答えてもらってないんだけど。」
「うるさい!!!」
男は怒りを前面に押し出し、
「今は亡きトギワ国の仇、「勇者ティル」おまえの命をもらい受ける!」
烈火のごとく言い放った。