ケインの用事
「そういえば、ケ・・・お前は何の用事だったんだ?」
「ケインだ・・・・さすがに瞬間的に名前を忘れるのは直した方がいいと思うが。」
ケインは頭を抱える。まぁこういうやつだというのは知ってたわけだが。
「お前さん処の弟子・・・・ガジェルからの物資の輸送が本命の用事だ。俺は空間魔術にも長けてるからな。」
この森の塔までは来るには輸送手段が限られる。空間魔術で物資を収納できれば確かに移動は楽だろう。
「・・・・空間魔術に長けてるなら、裏取りの資料も持ってこれるだろうに。」
「まとまってねーんだよ!わかるだろ!」
容量の問題じゃねーよ!とケインは言い訳をする。まぁ本当のところは分かってはいるが。
「本命は国から勇者の状況調査、報告だろ?」
「・・・・そうだ。」
別に隠す必要もないのか、ケインはすぐに認める。
ようするに俺が死んでて野放しになってないか、様子を見て来いということだろう。
「まぁいい報告が出来そうだ。このままあの勇者がおとなしくなるまでお前が世話を見てくれれば、世界中の人間が喜ぶだろうが。」
さすがに勘弁してほしい。俺はゆっくり自分の研究を進めたいのだ。
「運んできた生活物資とかよくわからんものとかは、いつものところに置いとくぞ。適当においてもお前んとこのゴーレムなら問題ないだろ。」
「ああ、それくらいは仕込んである。」
この塔のゴーレムは数が多くそれぞれ最適化してある。
なるだけ自由な時間を得るように、雑務はすべてゴーレムで賄えるようにと苦心した結果だ。
「んじゃ帰るけど、いつものようにここへの転移用の魔術具、一つもらっていくな。」
場所は分かってるから勝手に持ってくぞ。
と、ケインはことわりを入れる。
あの勇者でもない限り、安易にこの塔に来ることは難しいから仕方ないことではある。
何より物資を運んでくれたのはありがたい。
ちょうど研究用の資材が切れていてこのタイミングでの物資は非常に助かる。
勇者に使うはずだった時間も2日稼げたし、ここは自分の研究を進めてもいいのではないだろうか。
いや、いいにちがいない。
そうなると進めるべき工程は・・・・
「んじゃ帰るからな。」
ケインの言葉もすでにミリオンには入ってくることはなかった。
頭と心はすでに研究のことでいっぱいだ。
そんな様子もさもわかってましたよっといった表情で、ケインは席を外した。