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Bloody Empire  作者: ゆづりは
第1章:黎明編
8/19

7:歯車は動き出す

後書きにお知らせがあります!


【追記】1/16


ルビを修正しました。

「はぁっ、はぁっ……!」


 もう、どれくらいの時間が過ぎたのだろうか。そんなことを考える余裕すら、今の美咲にはなかった。


「なんの、これくらい……っ!」


 口では強がりが出るものの、実際はこれ以上は限界と言わんばかりに美咲の四肢は突き刺されるような痛みに襲われ始めていた。


 魔力というものはただ魔術を使えるようにするだけでなく代謝や治癒力を高めてくれる効果も持っている。


 しかし世の中には、甘いだけの話などは存在しない。魔力が切れれば、当然その恩恵を受けることは出来なくなる。


「はぁ、はぁ……っう!!」


 危惧していた事態が起きた。内側から突き破らんと暴れ出す痛みが、美咲の動きに若干の硬直を生む。

 当然、道化師がそれを見逃すはずはなく、手を軽くひねり巨人に指示を出す。


 程なくして右下から空に向けて大きく振り上げられた棍棒は地を掠め、数多の小石を撒き散らす。


 小指の先ほどの大きさのものでも、速度が出れば凶器となる。そうして生まれた微細な弾丸は美咲の頬や腕を掠め、確実にダメージを蓄積させていく。


「っぐ……うっ……!」


 痛みに耐えきれなくなった美咲は膝をついた。四肢がより強く痛み出し、たまらず顔を歪める。


「ンッフッフッフ……どうやら終わりのようですねェ……!」


 限界と、好機。それら二つを感じ取ったペドロリーノは不敵な笑みを浮かべながら、トドメを刺せと言わんばかりに美咲を指さす。


 従順にそれを聞き入れた一つ目の巨人は、操り主と同じような笑顔を浮かべながらじりじりと近づいてくる。


 否、じりじりなんてものではない。歩幅が人間の数十倍は大きいため、一歩踏み出すだけで目と鼻の先まで肉薄してくる。


「万事休す……かな」


 更地となった地面を、巨人の足が豪快に踏みつける。


 凄まじいまでの風圧が強く髪を揺らす。巻き上げられた塵が、ダメ押しと言わんばかりに傷口を刺激する。


 編入するはずだった学校が巨人の背景に映るのと共に、十五年と数ヶ月の人生で培った記憶が脳を駆ける。


 これが走馬灯かと、美咲は死を覚悟した。


 一流の白魔術師になるためにこの街に訪れて早々、命の危機に陥るとは思いもしなかった。


「でも……私の犠牲で、助かる命があるなら」


 安いもの。それが大勢なら尚更だ。

 そう自分に言い聞かせ、自らの絶望的な運命に身を任せるように目を閉じた──


「うおおおおおあああああ!!」


 その瞬間、鼓膜を破らんばかりの叫声が耳を突いた。


 本当に人が出しているのかと言わんばかりの声量に思わず耳を塞ぐと、小さな人影が巨人に向かって飛びかかる。


 その影の正体は、自分と同じ歳くらいの少年だった。


 少年は飛びながらぐっと右の拳に力を込め、勢いよく突き出す。放たれたそれは風を纏い、巨人の腹の中心を的確に捉えた。

 勢いよく振り抜かれると同時に巨躯が大きく吹き飛び、再び背から崩れ落ちる。


「これで終わってくれりゃありがたいんだけどな」


 静かに目前に着地した少年から放たれる、落ち着きのある低い声。

 背丈的に歳の近いその声は、姿が見えなければとても同年代とは思えないほど大人びている。


 そんな声に、美咲は覚えがあった。


「カズ……竜胆、くん……!?」

「数分ぶりだな」


 口に馴染んだあだ名を呼びかけ、慌てて訂正しながら美咲はここで何をしているのかと問う。

 それを耳に入れた和真は「安心しろ」の言葉と共に的外れな答えを述べ始める。


「ちゃんと姉弟は逃がしたよ」

「そうじゃなくて……!!」


 驚くのも無理はないだろう。なぜなら目の前に立っている癖のかかった黒髪の少年──竜胆 和真は先刻、幼い兄弟と共に美咲が身体を張って逃がしたばかりなのだ。


 ここにいるべきではない存在の彼が、自分の目の前に立っている。美咲にとってそれは、一番起きて欲しくなかった事態だった。


「おぉ、ぬぉぉ……クク、クハハハハハハ!!アァーッハッハッハァ!!!」


 不敵な笑い声が響き渡る。和真の繰り出した拳はサイクロプスに直撃したため、肩に乗っていたペドロリーノも少なからず巻き込まれているはず。

 にも関わらず、潰されることなく生きているタフネスと悪運の強さは尋常じゃない。


 あんな細い身体のどこにそんな頑丈さがあるんだ、と和真と美咲は同時に考えた。そして、そんな常識じゃ測れるような相手でないことを即座に察した。


 二人で固まっていれば死ぬ。加えて美咲は魔力切れを起こしているため、頭数に数えることは不可能。


 言うまでもなく不利な状況の中、痛みに襲われ座り込んだままの少女を庇うように立った少年の頭に浮かんでいた選択肢は一つ。


「ここで休んでろ、後は何とかする」

「大丈夫、私はまだ……っぐ!」

「その身体で何が出来るんだよ」


 和真の言い分はごもっともだった。美咲の身体に走る痛みは、立っていることすら儘ならない程に大きくなっていた。


 魔力はもちろん、まともに動く力もない。

 文字通り何も出来ない美咲は、圧倒的不利な現状において足手まとい以外の何者でもなかった。


 私はまだやれる。

 そう言い聞かせて立ち上がろうとするも激しい痛みに妨害され叶わない。そんな美咲を横目に和真は穏やかな声で言葉を紡ぐ。


「言ったろ、俺がなんとかするから大人しくしてろ」

「でも竜胆くんは……!」


 美咲は知っていた。

 和真が戦いを嫌い、そして恐れていることを。


 本人がそう言っていた訳ではない。

 地響きが聞こえた時の強ばった表情や、逃げろと促した際の苦痛に満ちた表情を見た時に、自ずと悟ってしまったのだ。


 にも関わらず、和真はここに現れてしまった。代わりに戦うことを選ばせてしまった。


 戦いを嫌う彼にそれを強要せざるを得ない現状。美咲にとってはそれは歯がゆくて仕方がなかった。


 下唇を噛み締め、少女は懸命に涙を堪える。そんな様子を見て鼻で笑った少年は、後ろに向けていた首を再び前に向けた。


「お前の想像通りだよ。俺は魔術も、それを使って戦うのも大嫌いだ」

「ならどうして──」

「でもな」


 和真はほんの少しだけ声を荒らげながら美咲の言葉を遮った。


 同時に響く巨大な足音。

 いつの間にか起き上がり、前方に憚る巨人の目は怒りに満ちている。そんな絶望的な状況を煽るかのように、巨人の肩から聞こえてくる狂ったような笑い声。


 甲高い笑い声と共に勢いよく振り下ろされる棍棒。それを睨みながら、和真は途切れた言葉の続きを再び紡ぎ始める。


「それは……ここで俺が逃げていい理由にはならないんだよ」


 言いながら、彼は右手の親指に歯を添え、その皮膚を勢いよく噛み千切った。


 痛みに顔を歪めながら、左の手を添え勢いよく前方に突き出す。飛び散る血飛沫が彼の足元から吹き始める風に混じり、徐々に色を赤黒く変えていく。


 色が完全に変わったのを皮切りに、勢いを増した不気味な風は直撃寸前まで振り下ろされていた棍棒を吹き飛ばした。

 その風はまるで意思を持っているかのように渦巻き、荒々しく彼の髪を逆立てる。


「それですそれェェ!!!それこそが、我々が求めている「力」ァァァァッッ!!!」


 ペドロリーノの狂乱っぷりに拍車がかかる。それに伴い、サイクロプスに絡みつく歪な魔力が強さを増す。


「…………しぶとい奴だ」


 武器を失ってもなお消えない戦意に対する皮肉を述べつつ溜め息を零し、大きく一歩を踏み込む。


 深呼吸を一度挟み、荒々しく吹き荒れる暴風を足に纏わせるべく強く念じる。やがて和真のイメージ通りに風は動き、両足に巻き付き始める。


捧血身体強化(ブラッディブースト)瞬脚(レッグス)


 和真は短く呪文を唱えた。その途端、足に絡んでいた風が勢いを増す。


 感覚が変わったのを合図に和真は勢いよく地面を蹴った。

 弾丸のような速度で上昇していく彼の狙いは巨人の顎。利き腕である右腕に力を込めながら、すぐさま別の呪文を唱え始める。


 「捧血身体強化(ブラッディブースト)剛腕(アームズ)


 詠唱を終えた和真の右腕が、周囲を渦巻いていた赤黒い風に包まれる。それを、美咲は座り込んだまま、和真の高まり続ける魔力を肌で感じていた。


 尋常じゃない大きさに膨れ上がった魔力と先刻の詠唱。文献でしか見たことがないが、間違いなくあの禁忌魔術に他ならない。


「何をしてるサイクロプス!早くその小蠅を叩き落とせェ!!」

「ガタガタうるせえ……!!」


 叫びながら突き出された右の拳が、和真を叩き潰さんと振り下ろされていたサイクロプスの拳と勢いよく衝突する。


 ぶつかった際に生まれた衝撃から生まれた余波が木々や草花、雲を揺らす。

 文字通り地に足を付けていないと吹き飛ばされそうになるほどの膨大な風を生み出しながら、彼と巨人は拳を合わせ続ける。


 少しずつ聞こえ始めた、何かが軋むような音。

 一体どこから奏でられているのか、その疑問の回答が出るまで多くの時間は要さなかった。


「まさか……!!」

「がぁぁぁぁぁ!!」


 不穏な音の正体を知ったとほぼ同時に、和真の怒号が美咲の耳に届く。それを合図に赤黒い風が巨人に向けて吹き付け始める。


 迫り来る暴風に初めは何とか踏み留まって耐えていたサイクロプスだが、やがてその巨躯が少しずつ浮き始める。


「馬鹿なッ!?負けるというのかッ!?この私がッ、こんな子供にィィィィッッ!!」


 優勢と劣勢が少しずつ逆転し始めたことに取り乱す道化師。荒ぶる突風は、止まることを知らない。


「出てけよ……!!俺の大事な場所に、近づくな!!」


 腕が纏う風が唸り、豪快に巨人と道化師を吹き飛ばした。


 不意打ちも合わせてたった二発。それだけの手数で、彼は美咲が三分という短い時間を稼ぐので精一杯だった魔獣を彼方へと運んだ。


 ほんの少しだけ落ち着いた痛みを何とか堪えながら膝で立った美咲は、戦いを終え地に足をつけた和真を見つめる。


「竜胆、くん」


 名を呼ぶ声が、自ずと震える。それを耳に入れた和真は振り返り、小さく微笑んだ。


 強ばった不器用な笑顔。そこにはどことなく自嘲が混じっているように見えて、美咲の心を少し締め付けた。


 この日、否、この瞬間。

 悲しき過去に囚われ、止まったままだった少年の時間は少しずつ、着実に動き出し始めたのだった。

前書きでも言った報告ですが、今回の更新で毎日投稿は終了、以降は不定期更新になります!


最低でも一週間以上は間を空けないよう頑張りますので、引き続き応援してくださると嬉しいです٩(◜ᴗ◝ )۶

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