3:恐怖の始まり
【追記】12/18
改行など一部修正を加えました。
【追記】1/15
サブタイトルを変更しました。
貨物の中で、何かが暴れる。
それは、今回の作戦において非常に重要となるもの。
すぐそばにある巨人用の牢獄を町に解き放ち、そこに生息する生物を殲滅するという残酷極まりない作戦、その要となる魔獣だ。
今すぐに飛び出したい。
狭くてたまらない。
そう言わんばかりに荒々しく鉄格子を激しく揺さぶるのは一体の巨人。溢れ出る衝動のままに己を封じ込めている牢獄に怒りをぶつけ続ける彼に、一つの影が近づく。
その存在に気づいた巨人が鉄格子を揺する力を強めるも、ローブを身にまとった男は動じることなく魔術を使用する。
使用したのは「精神操作」という魔術。
本来は不安定な精神を落ち着かせるために使用するものだが、応用すれば対象を操り人形のように制御することも可能である。
「いい子です。そのままゆっくり出てきなさい」
鉄同士がぶつかることで生まれる激しい金属音はもう鳴り響いていなかった。それを確認したローブの男は呼び掛けながら指を鳴らす。その途端にガチャン、と重い解錠音が響く。
男が近づき、魔術を一つかけるだけのたったひと手間で出来上がった従順な下僕は、ゆらりゆらりと不安定な足取りで牢獄を抜け出す。
現れたのは十五メートルほどの一つ目の巨人。「サイクロプス」と呼ばれるその種族は本来、人と共存できるほどに温厚な性格の持ち主とされている。
だが、今は違う。
今の彼は、ただ男の指示のままに動く傀儡だ。
「さぁ行きなさい。今回の目的地は……エタニティア」
ローブ男は巨人の肩に飛び乗り、指示を出す。それを了承するかのように、一つ目の巨人は大地を揺らさんばかりの咆哮を放つ。
「全ては──」
男が口火を切る。それを合図に、巨人は手に持った棍棒を勢いよく振りかぶる。
「世界をあるべき姿に戻すために」
自らが所属している組織の目的の全てであるその言葉が紡がれた瞬間、巨人が振り上げた木製の巨大な棍棒が強く地面を叩く。
それによって生まれた強い微動はやがて大きな主要動となり、木々や建築物を激しく揺らす。
舞い上がった土煙が晴れる頃、周辺の地形は瞬く間に変わり果てていた。
人為的に引き起こされた地震によって罅割れた地面、支えを失くしたことで根をむき出しにした木々、更にはひっそりと暮らしていたであろう小動物の死骸が転がり、美しかった森は原型を留めていなかった。
男は今一度、一つ目の巨人に行けと指示を出す。従順にそれを聞き入れた巨人は大きく踏み込み、荒れ果てた大地を勢いよく蹴りつけ飛び上がった。
それは始まりの合図。
破壊から無を生み出し、そこに自らの理想郷を作り上げるための、彼等の野望の第一段階だ。