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Bloody Empire  作者: ゆづりは
第1章:黎明編
3/19

2:遭逢

【追記】12/18

改行など修正しました。


【追記】1/8


ラストの文を削りました。


【追記】1/14


美咲の名前にルビを振りました。

セリフの微修正を加えました。

「和ちゃんいつもあんがとね!早苗ちゃんにもよろしく言っといて!」

「はいはい、おやっさんはギックリ腰気をつけてな」

「馬鹿言え、俺はバリバリ現役よ!」


 個人経営のスーパーで買い物を済ませた俺は、ほれこの通りと元気よく腕を回しながらドヤ顔してる男性であり店長——通称おやっさんにまた来ると告げてその場を後にした。


「……ん?」


 不安そうに辺りをキョロキョロと見回している同い年くらいの女子が俺の視界に映ったのは、ドアを抜けて帰路である左を向いた瞬間だった。


 肩が出るほど袖の短い黒のトップスに、ジーンズ生地のショートパンツを纏ったミディアムボブカットの少女。この辺じゃ見ない顔だが、さしずめ迷子と言ったところか。


「なぁ」


 少女のそばまで近づき、声をかける。


 程なくして俺を見た彼女は遠目だったからよく見えなかったが、野暮ったい黒縁眼鏡をかけている。

 姿だけ見れば文学少女だが、肩にかけたトートバッグの中に入っていた魔術書で全てを悟った。


 それと同時に思い出したくない過去が、当時の憤怒を連れて湧き上がってくる。その感覚に不快感を覚えるもなんとか堪え、目の前でキョトンとしたままの野暮ったい女との対話を試みる。


「この辺の奴じゃないよな」

「えっと……私ですか?」

「他に誰がいるんだよ」

「いないです……」


 蓋を開ければただの天然少女だった。お恥ずかしいと肩をすぼめながら頬をほんのり朱に染めている少女は、デパートや遊園地などでよく見る保護者とはぐれた子ども、いわゆる——


「しかしあれだな、まるでまい」

「い、言わないでください!」


 言葉を遮られながら、やはりかと溜め息をひとつ零した。


 言ってもこの街「エタニティア」は土地勘のない外から来た輩にとってはかなり複雑な道の作りになっているので、無理もないが。

 有事の際に魔獣などから逃げ切りやすいような作りとされているが、極東地域は基本的に平和なので特に意味はない。


 それに万が一が起こったとしても、街の作りを複雑にした程度で回避出来るほど甘くない。なぜなら暴走した魔獣達(やつら)は逃げ惑う人々を、街ごと跡形もなく焼き払うのだから。


「どこ行こうとしてんの?」

「ほへっ?」

「だから、どこに行こうとしてんのって聞いたんだけど」

「あ、えっと……家の場所は分かるんですけど、この辺に何があるのかを知りたくて」

「ふーん、なるほど」


 不毛な思考を止めて少女に問うと、すぐさま返答が来た。

 どうやら俺の勘は当たっていたらしいが、あれだけ挙動不審だと気づかないって奴の方が希少だと思われる。


「……あの!」

「ん?」

「案内……お願いしてもいいですか?」


 お忙しくなければ、と付け足された頼み事は、先程の消え入りそうな声からは想像もつかないボリュームの声で紡がれた。


 この後の予定は特にないし、叔母さんも「遅くなりすぎなければいいよ」と半ば放任主義な感じなので問題はない。


「あぁ、いいよ」


 断る理由もないので頷いた。何度も礼を言いながら頭を下げる少女に対して気にするなと告げ、ついてくるように促す。


 とたとたと子どもみたいな足音を奏でながらついてくる様は、さながら生まれたてのアヒルの子のように思えてくる。


 いざ案内を開始しようとした瞬間、名を名乗り忘れていたことを思い出した俺は、後ろを歩く少女に向き直って口を開く。


「俺は和真。竜胆 和真だ」

「あ、私は石蕗(つわぶき)美咲(みさき)です。四月からあそこの(セント)エタニティア魔導学園の高等部に編入することになってて」


 遠くのレンガ仕立てのどでかい建物を指さす彼女が話した内容に心から驚いた。


 歳が近いような気はしていたが、まさか同い年とは思ってなかったので少しだけ面食らっていると、石蕗と名乗った少女は何やら不思議そうな視線を投げかけてきた。


「どうしたんですか?」

「同い年なんだな、と思って」

「見えま……せんよね。子どもっぽいのかな、私」

「見えないとまでは言ってないけども」


 石蕗はそう言って眉を下げながら唇を尖らせた。

 そういう所が子供っぽいと思うのだが、他人が気にしてるところを指摘したりするほど性根が腐っている訳では無いので抑え込んでおく。


「大人ぶって無愛想にしてるよりマシだと思うけど」

「あ……ありがとう、ございます?」


 代わりに投げた言葉は、フォローになってるか微妙ではあるが堅苦しい敬語で紡がれた礼と綻んだ顔から悪い結果に転んでいないことは悟った。

 歳の近い人から堅苦しくされるのが苦手な俺は、開いた右手を突き出しながら同い年なんだから改まらなくていいと告げた。


「分かりま……わ、分かった!」


 たどたどしい常語で紡がれた礼のあまりの不自然さに少し吹き出しながらも、周辺の案内を再開する。


 と言っても、このへん住みだとこの商店街であらかた生活用品は揃えられるので使ってるうちに慣れるとは思う。が、慣れるまでに時間をかけるよりはある程度知識を蓄えておいた方がいいだろう。


「優しいね、竜胆くんは」


 藪から棒に告げられた褒め言葉。それを理解するのに数秒ほどの時間を要した。

 なぜ今褒められたのか、というか何を見て優しいと思ったのか、俺には全く分からない。


「優しい?俺が?」


 少女は頷く。何を根拠にと毒づくと、石蕗は穏やかな笑顔を浮かべながら口を開いた。


「私みたいな余所者を気にかけて、道案内までしてくれる人が酷い人なわけないなって思って」


 石蕗はそう言って頷いた。控えめな笑顔を浮かべる彼女が、なぜか眩しく感じる。


 いつからだろうか。


 穢れのない純粋な奴を見た時、たまらない恥じらいが襲いかかってくるようになったのは。


「そうか。まぁお前がそう思うんなら、そうなんじゃないか」


 素っ気なく返し、案内を続ける。


 石蕗の足取りが軽くなっていたように見えたのも、「君はずっと変わってない」なんて訳の分からない言葉が聞こえたのも、全てはきっと気のせいだ。

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