0:序
初めまして!
色々拙いところはありますが、楽しんで頂けたら嬉しいです!
今から二千年以上前の話である。
とある異世界が、この世界の隣に存在していた。
その名はジオルド。それは、人と魔術が共存する世界。ドラゴンが空を飛び、巨人が森を歩くような、言わば幻想めいた世界だ。
近代的技術が発達した地球と、「魔術」と称される非科学的な存在が発達したジオルド。
本来なら決して交わることはないはずの二つの世界が、何らかの力によって引かれ合い、混ざり合った。
そうして生まれた新世界は、二つの世界の名前をそれぞれ取って「ジオ・アース」と呼ばれるようになった。
人と、魔術と、異界人が互いの存在を認知し、許容し、それぞれの文明を混ぜ合わせ、大きく発展してきた。
それをよしとする人もいれば、当然悪しとする人も存在する。やがて同じ思いを抱く者達が集結し、とある組織を作り上げた。
「全ては、世界を元ある姿に戻す為に」
一般人が聞けば、混ざり合ったこの歪な世界を再び分断する為に、という意味で捉える人が多数だろう。
だが、彼らにとっての「元ある姿」とは、何もかもが生まれる前。言うなれば「ありのままの更地」ということなのだ。
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「父さん!母さん!姉ちゃん!!」
業火が、故郷を包む。
それは瞬く間に木々を焼き、家屋を燃やし、大地を焦がす。
俺が出かけてる間になぜ、と考えながら少年は走り、自宅へと戻る。だが既に炎の魔の手は忍び寄っており、全てを焼き尽くさんと言わんばかりに轟々と燃え盛っている。
絶望しかけながらもドアは無事であることを知った少年は、震える手に鞭を打ってそれを開け放つ。
土足のまま中に入り、すぐ右の戸を開く。必ずそこに現れるはずいつも通りのリビングは面影などまるでなく、荒々しい炎が現在進行形で燃え盛っていた。
真っ赤な絶望は日常的に目にしていた光景だけでなく、少年の僅かな希望すらも燃やした。
「姉ちゃん!!」
すぐそこに倒れていた一人の少女の名前を呼び、駆け寄る。
見慣れたはずの優しい姉は、半身が焼け爛れていた。綺麗な顔は見る影もなく、身体と同じように半分が火傷に覆われている。
ここが地獄かと少年は思った。それと同時に湧き出るやり場のない怒りが理性を蝕み、砕く。
「姉ちゃん!!起きろ!!」
手遅れかもしれない。分かってはいるがどうしても呼びかけることをやめられなかった。
受け入れたくない現実を跳ね飛ばすように、少年は何度も浅い呼吸を繰り返す少女を揺さぶり続けた。
名前を呼んだ回数が二桁に達しようとした頃、小さな呻き声を上げながら二歳上の姉が目を覚ました。どうやら少年の願いは天に届いたようだ。
「かず、ま……?」
「姉ちゃん!しっかりしろ!!」
「何してんの、早く逃げて……!」
「逃げるってなんだよ!!どういうことか説明してくれ!!このままじゃなんもわかんないよ!!」
「このままだと奴等が……!だから早く――」
「なんだ、帰っていたのか」
少年を呼ぶ、ドスの効いた低い声。
振り返るとそこには長身の男。両手で引きずっていたのは、紛れもなく気を失った両親だった。
無精髭を生やした中年くらいの男性は不敵な笑みをその豪胆な顔に浮かべながら、少年達にじりじりと近づく。
証拠はないが、少年は確信した。間違いなく奴が自分の家族を痛めつけた張本人であると。
「……っ!」
怒りで全身が震える。
同時に湧き上がる感覚はまるで内に秘めた獣が荒々しく吠えているかのようで、少年の心を激しく揺さぶる。
「……お前が」
恐ろしく低い声が、怒りと共に腹の奥底から噴き出た。
「……あ?どうした小僧」
「……お前が、やったのか」
「あぁ、これか?ま、想像にお任せするとし――」
「お前がぁぁぁぁぁ!!!」
濁音混じりの怒号を放った所で、少年の理性は意識と共に弾け飛んだ。
あの瞬間、腹の底で何かが目覚める感覚と共に見知らぬ女性の顔が頭に浮かんだこと以外は、何も覚えていなかった。
脳が冷静さを取り戻した頃には火事は収まり、既に朝を迎えていた。
だが、自宅があったはずの場所は瓦礫が広がり、目の前には男が仰向けになっていた。
近づいて耳を近づけるも血塗れた彼の呼吸は停止しており、既に生命活動を終えた後だった。
自分がやったのか。考えるより先に動いた身体は姉や両親がいた場所へと向かう。
「なんで……なんで……!」
どこにもいない。
どれだけ見回しても、
どれだけ瓦礫を取り払っても、
自分が会いたい人達の姿は一向に現れない。
「……あぁ」
堪えられない涙と共に、嗚咽が溢れる。
「あぁ……うぁ、あぁぁあぁ……!!」
それはやがて、悲しい叫び声へと変わる。
「うぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!!」
少年は泣いた。
涙が枯れても、
喉が嗄れても、
哭き叫ぶことを辞めなかった。
「ふざけんな……ふざけんなよ!!クソッ!!」
悲しき慟哭が、更地となった村に響き渡る。
少年は嘆いた。
孤独という名の地獄と、自らに降りかかった災難を恨み、呪い、憎んだ。
「こんな……こんな力がなければ……!!」
魔術なんてものがなければ、こんなことにはならなかった。
戦うからこうなる。
なら、もう戦わなければいい。戦わなければ、何かを失うことはない。
神聖暦二二二六年、六ノ月十七日。
後に「アポカリプス・ミコラピス」と名付けられた残虐な事件が起きたその日、少年の時間は止まった。
閲覧ありがとうございました!
1話は近いうちに公開します!