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「案山子」と「彼女」  作者: 有無
2/21

1.1

春はあけぼの。

居眠りにぴったりの陽気さは新入生はともかくとして、進級した学生達には犯罪的な暖かさであろう。

夜になれば少し冷えるが、寒いと言う物の程ではなく散歩にはぴったりの気温だ。

大学時代になんとか趣味を持とうとして散歩と音楽を趣味に出来た俺は今日も音楽を聞きながら夜道を散歩していた。

明日は休日。つまり今日は花の金曜日。世間のナウなワカモノは略して花金なんて言われているようだ。

社会人ともなればその過ごし方は無限の可能性を秘めている。

学生だったあの頃は、ただただ空を見上げて過ごしていた。

その空の風景、天候の変わり具合なんかは見てても飽きなかったから見ていたしそれを他人からとやかく言われようが俺は気にすることはなかった。

というのは、他人に語る上での建前に過ぎず本心を言ってしまえばとりあえず時計の秒針を見つめているよりマシだろうということで見ていただけだ。

俺は手元の携帯を見る。

画面には地図アプリが起動しておりある場所への案内がされていた。

俺の住むアパートから今のところからどれぐらいだろうか。

ある程度の時間はかかったようにも感じるが、それはともかくとして「彼女」からの招待を受けた。

先日、奇跡的な確率の最悪の再開をし数時間前にさっそく「彼女」からのコールがかかってきた。

俺の携帯番号をどこで調べたのかは分からないが、「彼女」曰く探偵だからという納得していいのか分からない返事が返ってきた。

犯罪まがいの事でもしたのであればすぐにでも警察に電話をしても良いのだが、場所も知らないし俺は「彼女」の名前も覚えてないのだ。通報の仕様がないので、通報しない俺の良心に感謝しろという形で済ませた。

話を要約するのであれば「手伝って欲しいことがあるから来てほしい」とのことだ。

興味はないが、好奇心はある。

「彼女」の職業が探偵。

これが本当であればその職業の一部を自分の目だとか耳だとかで経験できる。これは滅多に経験できないだろう。

と、「彼女」が昔言っていた経験論を持ちだしてみたが、これを言えば恐らく嫌な顔をするのは予想済みだ。

「ふむ」

ここだ。

一見二階立てアパートのように見えなくもないが、それよりもどこから入ればいいやら皆目見当がつかない。

と最初は思うが、まぁ適当にそれっぽい所をノックして見れば良いか。

まずは、一階の一番目の前にある1号室をノックした。

ネームプレートには「笹木」と書いていた。

俺は「笹木」と書かれたドアをノックする。

「トントン」

俺はノックノックジョークの要領で声に出した。

少ししてから

「どちら様?」

と返事が来た。

女性の声だが少なくとも「彼女」の声ではなかった。しかしこの場面、もしかしたら相手はノックノックジョークを知っているかもしれない場面で「あの、ここ探偵事務所ですか?」という普通の返しをしてしまうのは人間としてのノリと価値観を疑われるだろう。

いや、別に良いんだけど。

「靴ですよ」

「どの靴?」

俺はくっくっくと作り声を出した。

「くつくつと笑う人ですよ」

ドアが開く。目つきはつり目気味で青い半袖シャツにパンツスーツを着た長めの黒い髪を適当にヘアピンでとめたような、そんな女性が顔を見せた。

「及第点、でもノリの良い人は良い人だとあたしは思っているわ」

それは嬉しいが、俺の頭の中に浮かぶのはやっちまったなぁという感想しかない。

若さはとうに過ぎ去ったというのに何をしてるのやら。

「あー、すいません。ササキさん」

「ササギ、よ」

訂正ありがとうございます、そしてすいません。

「ササギさん、すいません。この近くで探偵事務所というのはありますか?」

笹木さんはつり目を細くする。

「依頼か何か?だったら明日にでも出直してくれる?こっちも今立てこんでて。良いわよね?」

ここがそうなのか。

しかし来て早々門前払いというのは、勘弁してほしい。

次の日にまた電話が「彼女」から電話がかかってきて「何で来なかったのさ!」という理不尽をぶつけられ、下手したらしたくもない電話での話相手をしなければならない。主に文句とかな。

無駄な労力は別のところで使うべきであるのだ。

しかし、ここでも名前が分からないという弊害が出てきている。

聞いたところでたぶんすぐ忘れるだろうからなぁどうしたものかこれ、と悩んでいる内にドアは徐々に閉められていく。

俺は少し大きな声を出す事にして賭けにでた。

どっかの警官も言っていた。

人生はギャンブルであると。あの不良警官は憎めない素晴らしさを兼ね備えている、俺もかつてはあんな人生を送ってみるのも良いかもなんて思った事があるがあんな生き方俺には似合わないとすぐに自分で却下した。

「へい、『彼女』さん。案山子が来ましたがいないのですか?」

閉じかけてたドアが止まった。笹木さんが訝しげな様子で俺の顔を見てくる。

あぁ、やらかしたか。俺は明日から「案山子」以外にもあだ名を付けられてこの近辺で歩く事が出来ないだろうなぁ、もっといえばノックノックジョークが通ずる相手さんもいたと言う奇跡をあと数秒噛み締めても罰は当たらないじゃないか、まぁどうでもいい事かなどと思っていると、笹木さんの背後から声が聞こえて来た。

「所長!私です、私の客人です!」

奥からバタバタと足音を立てて笹木さんの横から顔を出したのは「彼女」だった。

「御免よ、ちょっと書類整理でね。所長すいません私が話していた例の男性ですよ」

「あぁ、君がか」

笹木さんがドアを再び開ける。

「話はまぁ、入ってから詳しくするわ」

賭けは成功したみたいだ。

無事に目的地にたどり着いた、他人事のように良かったと思うが、面倒な事に片足を突っ込む事になりそうだとも思った。

そう思いながらも案内されるがまま俺は部屋の中に入った。

中はデスクが2つ。

客を招くであろう場所には見た目高そうなテーブルとソファ。雰囲気はまるで大手企業の社長室を思わせる。

そしてそんな雰囲気を壊すかのような全体的に散らかった書類とファイルが並んだテーブル。

総合判断してストレートに言うならクソ汚い部屋だった。

「ごめんね、散らかってて。でもこれが当たり前だから勘弁してね」

そう言いながら笹木さんは高そうなテーブルにまで散らかった用紙を適当に集め始めた。

なるほど、さきほどの立てこんでるとか書類整理と言うのはただ「部屋掃除」ということだったのか。

「あぁ、一応な?案山子は客人だからそれなりの対応をしようと思ってな?ただその前に仕事が立て込んでてな」

言いわけをつらつらと並べながら同じように用紙をデスクに重ねていく「彼女」。

まぁ俺も社会人だからこの状況を分からなくもない。

しかしながらただ待つわけにもいかないし手伝うべきか、しかし俺は二人からしたら客だ。個人情報の概念はこんだけ散らかしていれば薄いだろうが、常識として見るわけにもいかないし手伝わない方がいいだろうか。

などと思っているうちに一応スペース確保は出来たみたいで、俺は座るように促される。

「改めて、今日は来てくれてありがとうね。いや私も君が来てくれるとは思ってなかったものでね」

缶コーヒーを俺に渡しながら対面のソファに腰を下ろす「彼女」

うむ、高校の時からあまり変わってない気がする。

気がするだけだ。当時の「彼女」の姿なんて覚えてない。というかうろ覚えだ。

「彼女」の横に笹木さんが座りながら、ある用紙を持ってきて俺に見せてきた。

「今回あなたを呼んだのは簡単な話。男手が欲しかったからなの」

俺は用紙の中の文字を読む。

そこにはストーカー被害に遭っているため、ストーカーの調査とやめてもらえるようにしてほしいとのことだった

俺は当然のように聞く。

「なぜ、警察に頼らないんです?」

まぁ言ってしまってはあれだが、個人経営の探偵にこんな話を持ってくるぐらいだ。どうせ言えない事情があってだろうとは思っていた。

でも敢えて聞いてみた。

「彼女」が答える。

「特殊なんだって」

「?」

「被害遭ってる人がアルビノな人なんだ。」

それぐらいなら別に警察でもいいじゃないかと俺は思ったが、聞けば向こうも口を割らないとのことで、金を積まれに積まれて引き受けてしまったとのことだ。

「笹木さん」

俺は笹木さんを見る。

「そんな目で見ないで。でもしょうがないじゃない。お金はいくらあっても困らない。金は天下の回り物、人は最終的に金に縋り付く、この世界はお金によって生かされて動かされているんだから、だからどこまで積んでくれるかと思って渋っただけよ」

まぁ笹木さんの言いたい事も分かる。

俺はそんなに金に執着してはないけど、金がなければあらゆることが出来ない。

これは常識を超えて当たり前。

世間では笹木さんのような人は「成金」と呼ぶが。

「それで昨日実態調査をしようとして付いて回ってたら見つかって、逃げてたら君とぶつかったってわけだ。いやいや私も女性だけじゃ難しいだろうとは思っていたが、君と再開出来たのは幸運だ」

「彼女」はとっくに笹木さんには昨日の話をしていたようで、笹木さんもそれを聞いてもし頼みを聞いてもらえるならということで呼んでみたらしい。

女性だけじゃもし争いごとになった場合、どうにもならない可能性があるからと。

「報酬は弾む、でもあなたも分かる通り結構危ないかもしれない。嫌だったら嫌でもいいんだけど」

笹木さんはちゃんと逃げ道を作り

「申し訳ないが頼むよ「案山子」。私の生活もかかってるんだ」

逃げを許さないお願いをする「彼女」

正直、この二人の環境がどうなろうが俺の人生にはなんの影響もない。

恨み事を言われるか、もしこの二人の人格に支障をきたしたなら俺は後ろから刺されるかもしれないが。でもまぁ、こんな風に頼まれてしまっては俺も人間。

興味はないけど、断る具体的な理由が出て来ない。

俺は内心自分でも知らないノリ気でいるのやもしれん。

「良いですよ、手伝いますよ」

俺は引き受ける事にした。



笹木さんは、別の要件をまとめるからといってソファから離れてデスクに座った。

ということは、俺達二人で行うのか。

俺のような初心者が混じって本当に良いのかとまだ心配になる。

この采配に所長という立場の笹木さんの考えが、だ。

閑話休題。

依頼主は金井。

金にモノ言わせるにはお似合いな苗字だと思ったのは内緒だ。

さっきの用紙にも書いていた通り、子供が一人いれストーカー被害に遭っているのは金井の娘。「金井 未知」

特殊なアルビノという症状をもった少女とのことだ。

体が弱いとか、そういったことはないが聞けばずっと付きまとわれており一人でいる時には追いかけられたこともあるのだとか。

少女からすればこんな被害はトラウマになってしまいかねないだろう。

彼女の外見は当然のように注目を集める。

おそらく警察に頼るようになってしまえば注目が集まって愛娘がさらに辛くなる。

親馬鹿を発動させた両親はそう思って探偵を頼ったんだろう。

まぁ良くある。

それに対してストーカーの名前はまだ分からないまま。

「彼女」曰く、「警戒心が強すぎて付いて回るとすぐ気付かれる、おまけに凶暴。

番犬レベルで怖いのだよ」と毒づいていた。

とはいえ、そんな凶暴なストーカーを格闘経験があるわけでも、護身術も持ち合わせていない俺が正面から対峙して取り押さえられるわけがない。

万が一、相対する場面がでてしまったら何か対策をしなければならない。

俺は思考しながらもらった缶コーヒーを開ける。

この缶コーヒー苦いな。ブラックじゃないか。

「ストーカーの居場所や、潜伏先もまだ分かっていない。今までの調査から移動ルートはなんとなくだがわかっている。巡回時間も大体10時から12時ころだ」

なるほどね、とはいえまた「彼女」に尾行をお願いするのは危ないだろう。

顔がばれていなくとも、体格であったりとか行動の癖なんかは人それぞれ。

それを見抜く人であった場合手遅れな状況になりかねない。

ならばまだばれていないはずの俺が出るのが良いだろうな。

「君一人で動かすわけにはいかないよ」

「彼女」が俺の考えを読み取ったのか、はたまた表情に出てたのか知らないが俺の考えを止まらせるように口を開く。

「お願いはしたが、危ない目に遭って欲しいわけじゃないんだ。今回は私のサポートでいいんだよ。そもそも本来は私たちの仕事なのだからね」

「何か案でもあるんですか?」

「まずは居場所を知る所から、だ。さっきも言った通り移動ルートは大まかな所は把握できている。いきなりとっつかまえてなんてこと私達ではできないからな。

ずっとつけて回ると気付かれるというのも分かっている。ならば途中途中で付いて回ればいいのさ。姿が見えなくなったらその周辺と言うところまで絞られるからな」

まぁ「彼女」がそういう風にするならそれに付き合うか。俺はあくまでサポートらしいからな。

手っ取り早い方法はあるが、これは言わない方がいいだろう。

「明日にでも早速行動するよ。君は忘れずに携帯はマナーモードにしておいてね。音が出るのに比べたら気付かれない可能性あるからさ」

「了解です」

「あ、その前に、所長。隣の部屋空いてましたっけ?」

「うん、あいてるわよ。使っても大丈夫」

「とのことだ。遅い時間に来てもらって申し訳ないし、泊まって行くといいよ」

俺はその申しでは凄く嫌だった。

下手すれば寝れずに過ごす。そんなのは御免だ。

「お気づかいはありがたいですが、大丈夫です。それに俺ももう歳ですし体臭を気にするもので」

これは本当だ。俺は臭いにかなり敏感だ。

「そうかい?私は臭く感じたりはしないがなぁ」

鼻を俺の服に寄せてくる「彼女」から距離をとりつつ

「明日何時頃にここに来ればいいですかね。あまり明るいうちでは行動にしくいでしょうし暗い時がいいですか?」

「そうだね、じゃあ9時ころにしよう」

時間の確認もして俺はアパートに戻ることにした。

それじゃまた、と「彼女」との挨拶はさっと終わらせて早く戻る事にした。

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