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「案山子」と「彼女」  作者: 有無
15/21

2.3

笹木探偵事務所につき俺への謝罪や挨拶もそこそこに笹木さんはさっそく件のストーカーの話を持ち出した。

まぁ仮にここで俺が

「俺へ何か言う事はないんですか?」

なんて言ってしまえば

「嘘を付いてまで病院を抜け出して周りの手を煩わせた君はむしろこれくらい手伝ってくれてもいいとあたしは思うのよ」

のような事が返ってくる事は予想していたから、向こうから何も言ってこないのはありがたい限りだ。

だが、金井未知の話だけじゃつきとめられない。服装は変えられるだろうし、出たばかりのnewストーカーの情報は調べてもいないから、どこに出没しやすいとかそういうことも分からないってわけだ。

「まぁまずは一番見つけやすい金井さんの住宅周辺で張り込みしようか。申し訳ないけど金井未知ちゃんの話だけじゃいろいろと不足してるし、そこから徐々に探って行くことにしましょ」

笹木さんの案はまぁ確実とはいかないにしても、無難ではあるだろう。

「基本的には、あたし達二人で交代で見る事にするから。君には今回も参加してもらったけど、ずっとあたしたちの仕事に尽くしてもらうことはできないから、会社が休みの日に手伝いで来てくれたらいいから。

くれぐれも「個人で」動く事がないようにしてね?」

個人プレーをさせないように牽制の意もこめた発言がされたが俺ではないだろう。俺は個人で何かに結びつく行動を起こしてはいない。

喋るだけだ。

一般人であるたかが一人の男の言葉で揺さぶられる程度の意思であれば、俺が喋らなくてもいつか自分から崩れて行くものだ。

「今日から行きますか?所長」

「そうね、でも今日はあたしから行く事にするよ。金井雅さんに事情を話しておく必要もあるから。あなたはここで待機してもらって、君は帰っても良いよ」

「駿河恵美さんの捜索はどうしましょう?旦那さんは時間がかかっても良いからどうにか、と言われてますし」

『彼女』はメモ帳を取りだし書きこみながら、駿河家の話を持ち出した。優先すべきはストーカーの件としたが、だからと言って行方不明になってる駿河恵美の方を全く手つかずにするべきではないだろう。

「じゃあそちらを俺が担当しましょうか。とは言っても普段は仕事がありますし近くの噂話を聞くぐらいにします。何か知れたら連絡しますし、どうです?」

俺が参加すると言った瞬間に笹木さんの口が開きかけたので、後半早口で事情説明。少なくとも俺も参加する羽目になっているんだ。ならば使える人は使った方がいいだろう。

そして俺がこっちを担当することで金井雅への貸しを少なくする事が出来てまた縁を切る事が出来やすくなる。

俺も参加する事が金井雅の依頼には含まれていたが、俺は金曜の夜に参加することでそれも守っている。

俺にとっても探偵組にとっても悪くない話のはずだ。

渋い顔をしていた笹木さんだが、最終的に他に案が出なかったように力のないお願いをしてきた。眉間に皺を寄せた表情は釣り目の怖さが増している。

「じゃあ、それでお願いしようかな。でも、単独で解決しに行くような事はしないでね。君は探偵じゃなくてあくまで手伝いなんだから」

そう、俺は探偵じゃなく手伝いだ。お手伝いに依頼を解決できるほどの力はない。解決にまで持っていかなければいいんだろうな。

単独で、解決しに行くような事はしなければ、いい。

「了解です。何か聞いたらする連絡しますから」

俺はそう言って『彼女』を見た。

「そうか『案山子』。お前は私の連絡先しか知らなかったな」

俺の友が『彼女』だけだと思われているのは心外だが、まぁそこは言うまい。

口だけで約束した上っ面の友ならたくさんいるからな。


とりあえず予定通り俺は先に帰ることになった。

事務所を出た空は変わらずの濁った曇り空。

仮にこれが晴れでも雨でも俺は何とも思わなかっただろうが。

とりあえず面倒事が増えて今日の休みは無駄に終わったという事実だけが俺の頭の中を巡っていた。

さて駿河恵美の行方だが、見当が全くつかない。

ならば駿河家に行くのが一番だろうな。

駿河夫はどうやら恵美の行方をしらないようだ。知らないフリをしてなければの話だが。

喋り方などから心底心配しているが、自分の事を優先できない人であると見せているだろうが、俺からしてみれば心配しているフリにしか見えない。

心底心配しているなら他人の事情なんか後回しにしろと言うのが人であるはずだ。余裕がなければ自分本位になるのが人だ。

駿河夫のあの態度が嘘か本当か分からないが、そんなことは後で確かめれば良い事。

向かうはアパートじゃない。駿河家だ。

本当であればアパートに戻って残り時間脳みそを使わないを過ごし怠惰を謳歌したい、というのが俺の願いだが。

世界のどこかにある7個の玉っころを集めて俺を今の関係している人達の記憶から消す事が出来れば俺は今すぐにでも会社をやめ世界各地を巡り探しに行くだろう。

現実逃避はさておき。

夜の方が目につきにくいだろうし、少しだけ様子を見させてもらうことにしよう。

何か得られるかどうかはさておいて、これは個人的な自己満足によるものだ。

よってこれから無意味な立ちっぱなしをするのだ。

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