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「案山子」と「彼女」  作者: 有無
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1.0

「私、努力をする人全てを尊敬している」

こんな言葉を言う女がおったそうな。

それが「彼女」である。

プライバシーの関係を兼ねて名前はちょっと伏せておく。

嘘だ、忘れただけだ。

「彼女」は努力を惜しまず、結果を出しても謙遜してか、偶然だとかたまたまとか。

そんな言葉をよく口にする人だった。

「結果が出なくても、努力をしたそれらは自分の経験になる。それは自分の財産にもなるんだ」

と言うのだ。

「結果が出てる人は言う事が違いますねぇ」

と「彼女」と二人で話をしていた俺はよく皮肉を口にしたものだ。

「お前も、もっと努力をすればまた変わってくるはずだよ」

そんな指摘を「彼女」はしてきたが、俺はこう言い返す。

「あんたも、その男勝りな喋り方を変えればもっと女性らしくなるかと思われるのでどうですか?」

女性らしさ、という言葉をあまり良く思わない「彼女」は眉をよせて

「大きなお世話だ。馬鹿野郎」

そんな風に吐き捨てて去っていく。

「彼女」はこんな事を遠慮せずに言う俺に対して「案山子」なんてあだ名をつけやがったのだ。

本人いわく「いつも仏頂面、立っても微動だにしない」という特徴からつけたらしい。

俺個人としては、そんなあだ名をつけられようがどうでもいいので言わせるだけ言わせておいた。



俺らの関係は中学と高校卒業までの6年間である。

中学はともかくとして、高校まで一緒の同じ所に行くのか甚だ疑問を感じたが、メンドクサイので考えない事にした。

長年の付き合いに入るかは分からないが、俺らの関係はあくまで友達以下顔見知り以上という関係じゃないかと俺は予想する。

中学の時はともかくとして高校にもなると勉学、部活、恋愛など様々な出来事に首を突っ込み噂を口にして毎日がエブリディ並みの同じ日々を話していた人達もいる。

そうともなると当然俺と「彼女」の話も出てくるが、お互いが冷めた対応を取るので俺らに関しての話題はあっという間に去って行った。

正直な話をするのであれば。

俺は他人に興味がなく、勉学は怒られない程度に出来てれば良い、スポーツも平均でいいだろう、恋愛は経験を積もうとすると時間掛かりそうなんでノータッチ。

と、いたって平凡を生きて来た男である。

青春なんてものには縁がない学生時代であるが、そもそもそこまでして青春を送りたいだろうかという所である。

「青春の言葉の意味として、人生の春を迎えた時が青春なのだから別にそれが学生の時でなくてもいいだろう」

こんなことを「彼女」に言えば「君の季節は冬だ。万年冬だ。雪山の上で立ってるのがお似合いだ案山子」

と暴言を吐かれたものだ。


そして今。

季節は春。

新社会人、新入生とかもろもろの姿を見ながら特に何かを思い返すわけでもなく俺は普段を過ごす成人だ。

地元を離れて県外で一人暮らしで社会人として過ごしているお気軽身分の一人である。

高校卒業後は大学に入ってが、特に何かしたわけでもなくとりあえず趣味として夜の散歩をするようになったぐらいだ。

あとは音楽を聞くようになったぐらいか。

しかしこんな風に一生過ごせるというのは、平凡な男として十分じゃないかと思うわけだ。

時には、親から地元の人達で飲み会とかあるという話で電話を掛けられるが、それも断っているから地元の人達とも疎遠になりつつある。

寂しい人生と思う人もいるだろう。

しかし俺はこの人生を生きがいのある人生だと思っている。


そう思っていた。


出来事というか事態というか。

産まれてからの人生で角にてぶつかるというのはどういう確率なのだろうか。

事の説明をするならばこうだ。

俺が会社から帰っている、帰り道の角にて人とごっつんこ、意味も分からないままにごっつんこした相手が俺の手を引っ張り走る、どこか分からん隅にて隠れる。

以上だ。

もし万が一にも俺のこの説明に具体性を求める人がいたならば、俺の手をひっぱりだしたこの人に聞いてほしい。

どこかの隅に隠れて数十分。

街灯もないしぶつかった相手は襟を立てたコートに暗めの帽子をかぶっていた。

まさかこの人何かしたヤバい奴なのではないか?と俺の中で不安が湧き始めた時。

「いや、危ない危ない」

俺の握っていた手を離し、俺に顔を向けた。

「大丈夫だったかな?」

何が大丈夫で何が危なかったのか俺にはイマイチ分かりかねたが、とりあえず「はい」と答えておいた。

「しくじってしまってね、まさか追いかけ回されるとは。だから一人だと危ないと...」

ぶつくさ言い始めたが、とりあえず俺は帰りたい。

「あの、良いですかね。帰っても」

俺はそう言いながら立ちあがり去ろうとした。

「気を付けなよ?案山子」

俺は思わず振り返る。

「やぁ久しぶりだ。こんな形での出会いは不幸なわけだが」

そのあだ名を知っている一人しかいない。

「彼女」が立っていた。

名前はそう。

なんだっけ、忘れた。

「久しぶりですね、強盗でもしていましたか?」

「違う違う、探偵だよ」

「彼女」は名刺を取り出し胸ポケットからペンをとる。

「さっき追いかけられてたのは、私が追いかけていた人さ。報告じゃ警戒心が強いからって言われてたのに私一人で行けって言うんだ。全く困ったものだ」

何かを書いた名刺を俺に渡す。

受け取った名刺の裏には電話番号が書かれいた。

俺は確認をするべく聞く。

「この番号はどこの?」

「勿論私のだ。ここで会ったのも何かの縁。困った時もしくは私が困ったら電話をするかもしれないからな、よろしく」

そう言って「彼女」足早に去って行った。


「あっ」

声を掛ける前に去って行ってしまった。

聞きたい事があったと言うのに。

「おい、ここ場所どこだ?」

とりあえず「彼女」との再開云々の前に俺は帰りたかった。

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