表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/79

#幕間.異世界トイレ事情

読書の箸休めに。短めです。

 この世界の文明レベルは中世ヨーロッパ相当という感じだが、大きく違う点がある。

 トイレだ。

 中世のパリもロンドンも、一般の家庭にトイレはなかったらしい。オマルのように壺の中にして、それを窓から通りにぶちまけてたとか。宮殿ですら同じで、貴婦人は庭の花壇で野グソしてたそうだ。「お庭に花を詰みに」と言って鼻をつまんでいたのだ。

 そんなわけで、実はペイジントンに着いた時はちょっと覚悟していた。産まれてこの方、水洗便所しか使ったことないからね。ところが、だ。

「……思った以上に清潔じゃないか」

 ザッハの店の裏の倉庫には、流石にトイレはなかった。なので、店の方のを借りたんだが、タイル張りのトイレは掃除が行き届いていた。

 日本でのトイレ掃除も、ちょっと精神修養的に徹底してた気がするが、こちらのは本当に宗教がかってる気がする。良い香りのハーブが籠に入れられて置かれてるのも好感度が高い。それになぜか、隅に髪の長い女神像が祀られてる。ここだけでなく、飲食店で借りたトイレにもあった。こっちは基本的に多神教らしいから、トイレの神様だろうか?

 考えてみたら、王都ハイアラスからペイジントンへの旅でも、野営のたびにトイレのための穴を掘っていた。そこに板を渡して、陶器製の便座を乗せれば出来上がり。使用後はきちんと埋めもどしてた。

 ここのトイレは、便器全体が陶器製だ。用を足すために蓋をあけると多少は臭うが、強烈と言うほどではない。そして、水の入った(かめ)が置いてあって、使用後はこれで便器を流す。手動ではあるが、水洗便所だ。なんて文化的なんだ!

 流れ込む先は地面に埋めたかなり大きな甕で、そこに集めた排泄物は、ちゃんと汲みだして肥料として利用していると言う。

 と言うわけで、アストリアス王国のトイレ普及率、はほぼ百パーセントだった。ルテラリウス帝国でも同様。宿場町でも辺鄙な農村でも一緒だ。

「この世界の文化って、なんかトイレにやけに力入ってるな」

 マオが旅の仲間に加わったので聞いてみたら、まなじりが下がった。

「はい、勇者さまが帝位につかれてから、熱心に進めた結果です」

 おう……勇者さまって女性だものな。

「よっぽどきれい好きだったんだな」

「はい。そのおかげで疫病による死者が大幅に減りました。そのため、今では勇者さまの小さな石像が、トイレに祀られているほどです」

 ……あれは女神さまじゃなくて勇者さまなのか。

「勇者さまは魔王からのみならず、疫病からも民の命を救ったわけです。そのため、今でも良い香りのハーブを供物として捧げる民間信仰が続いてます」

 あのハーブはお供えだったのか。

 うん、勇者さま、大人気だな。

「じゃあ、それ以前はやっぱり酷かったのか?」

「そうですね……今思い起こすと、隔世の感があります」

 いや、百年たてば当然だろ。

「しかし、大きく変わったのは農業です。下肥から作った堆肥の積極的な利用で、大規模な小麦の栽培が可能になりました」

 おお、小麦か。こっちじゃライ麦ってのが穀物の主力で、これで作る黒パンは今でも苦手だ。おかげで半強制的に低糖質ダイエットになったわけだが。

「帝都の晩さん会や帝国ホテルじゃ、柔らかいパンが食えたよな」

「はい、まだまだ貴重品ですが。あと、ライ麦の方も堆肥を使うことで連作障害が防げるようになり、収量が増えました。勇者さまは飢餓も退治してくださったのです」

 ふむふむ。なるほどなぁ。これって、いわゆる「内政チート」ってやつかな? しかし、百年前なんだよな。勇者さまは凄い才女だったのかな?


********


 とはいえ、俺も二十一世紀の日本人。トイレにはこだわりがある。

 と言うわけでジンゴローと一緒に作ったのが。

 じゃーん。

「おんすいせんじょうきー」

「なんでそこ、棒読みなの?」

 ミリアムに突っ込まれた。

「まぁまぁ奥様。ちょっとこれを見てください」

「なんで奥様? 大体、トイレなんて」

「いえ、ただのトイレじゃないんですよ。ほら、ここを押すとこんなものが」

 留め金が外れて、ばね仕掛けで便座の奥から管が出てきた。そして、ちょろちょろと水が出る。

「……で?」

「水に触ってください。大丈夫、清潔な水です」

「……暖かい」

「そうです、これで用を足した後の局部を洗えば、紙で拭く必要はありません。水気はこれで」

 ハンカチサイズの布が籠の中に積まれている。水分をぬぐうだけなので、洗濯すれば再利用できるから省資源。そして、上から下がってる紐を引けば、水が止まって管も引っ込む。

「確かに、清潔ではあるけれど。ぬるま湯じゃ、すぐに冷めちゃうじゃないの」

「はい、そこでこの水、というかお湯ですけど、ここから取っております」

 管の先は、空中に浮かんだ木の板に繋がってる。その周りを取り巻き回転する魔法陣。

「アイテムボックス?」

「そうです、絶大な保温性を持つアイテムボックスにお湯をためることで、常に最適な温度で提供できます。お湯が切れたら、いつでもマオが火魔法で温めたお湯を補給してくれますよ」

「……元魔王に、なんてことさせるのよ」

「さて、そこでお値段です」

「アイテムボックスごと売るの? それとも使用料取るの?」

「はい! プライスレスで!」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ