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未熟な小説家なんだから、もう少しキャラの気持ちを考えなさい。

前回投稿した短編にコメントくださった方のアイデアをモロ参考にして書いてみました。息抜きにどうぞ。

 

 「よう…やっと直接ツラ拝めそうだなァ…テメェ、覚悟はできてんのかァ?」

 「オーホッホ、地を這いつくばり、この私を見上げる事ができるなんて最高でしょう?」


 なんだこの状況は。どうしてこんなことになった。


 私は未熟な小説家である。デビューしてから鳴かず飛ばずで、出した本も売れているわけではない。

 

 しかし自分の作品、自分の産み出したキャラクター達に対して、私は心血を、魂を、持てる技術の全てを全力で注いでいるつもりだ。だからこそ、私は産み出したキャラクターを理解したい。何より、私の執筆した小説の世界を、誰よりも知りたいのだ。


 確かに、そう思っていた。思っていたのだが…


 「しかし、思っていた以上に芋臭い部屋だこと!住んでる男の品性を疑うわ。いえ、貴方みたいなチンパンジーに品性を説いても仕方ないわね!」

 「おい、ジェニファー、後で代われよ…こいつを顔をブロブフィッシュみたいな顔にしてからだけどなァ!」


 誰も小説の登場人物と、現実世界の私とを入れ替えろとは言っていない。ちなみにブロブフィッシュとは、とてつもなくブサイクな魚である。

 という訳で今、私は原稿の中から現実世界を見ている、と言う視点である。私自身が紙の原稿になったと思えば分かりやすいだろうか。


 なんの事はない。私は私の書いた小説のキャラを、世界をもっともっと理解したいと強く思い眠り、朝起きた。そしたら何故か、小説のキャラと入れ替わる能力に目覚め、勝手に発動していた。それだけだ。


 「待つんだ君たち…もっと穏やかに行こうじゃないか。アレックス、暴力はいけない。君の知的な好青年で設定したはずのキャラが破錠してしまうからね。それにジェニファー、紳士の部屋を口汚い言葉で貶すものではないよ。君のおしとやかで優しい筈の性格が台無しになってしまうからね」

 「ハァ?俺は誰かに引かれたレールの上を走るつもりはネェ!人間は自分のなりうるものに、ならなければならないんだよォ!!」

 「誰に指図しているのかしらこの類人猿は。もう一度野生からやり直して来なさい」


 しかし何故か、設定したはずの性格や風貌と著しく異なっているのは何故だ。今現実世界に出ているジェニファーは、田舎の娘なのに、キラッキラのドレスを纏っている。お前の家は貧乏なのに、どこでそんなドレスを買ってきたんだ。それにアレックス、なぜマズローの言葉を引用した。何故微妙に知的キャラだけ残っているのだ。


 「しかしテメェ…よくもこの前はこのくそアマとキスなんざふざけた展開にしてくれたなぁ!?」

 「あの時の屈辱は未来永劫忘れないわ…死ですら生ぬるい」

 「いやだって、君たち二人の恋愛小説なんだけど…」


 登場人物に展開のダメ出しを受ける小説家の私。死にたい。だがとりあえずこの状況を何とかせねば、録な事が起きかねない。


 「と…とにかく、君たちの不満についてはわかった。だから早く戻ってきてくれジェニファー」

 「ああ!?なんだこれ結局自分じゃ動けねぇんじゃねーか!…ハーン、ピンときたぜ…ジェニファー!これもしかしてお前がこの小説になんか書けば俺動けるんじゃね?」

 「試してみる価値はありそうね、よくやったわアレックス。さあ、類人猿、跪くがいいわ」


 頭の切れるアレックスと、いざというときには行動派のジェニファーの唯一残った性格が最悪の方向に動いている。まったく小説家をやっていて良かったよ。自分のキャラ達がこんなに私を気にかけてくれているなんて…作家としてこんな幸せな事はない。だからくたばれ。


 「確か今は私とアレックスが、誰も居ない部屋で落ち合っているシーンで終わっているのね。と言うことはこの入れ替わった猿とアレックスが同室…誰も居ない部屋、密室、男二人が密会…グヘヘ、ハァハァ」

 「お前BLいける口かよォ!?」

 「まて、ジェニファー!早まらないでくれ!」

 「『お前、男の方がいけるんだろ。素直になれよ…』『まって…早まらないで』そう言いながらも強く拒めない。アレックスは挑発的に迫ってくる、と…ジュルル」

 「「イヤァァァァァァ」」


 ジェニファーが書き出すと、その場面が頭に自動的に浮かんでき、実際にその場面に移動したかのようになる。目の前には上半身がほぼ裸の不良みたいに目付きの悪い男が、なまめかしく、妖美にこっちに迫ってくる。お前アレックスかよ。どうしたら好青年がこんな不良になるんだよ。いや…それどころじゃ無いんだ!


 「そしてアレックスは彼の唇に触れ、そして…」

 「おいオイィ、冗談じゃ」

 「まって!まだファーストキスも」


 ぶちゅ


 …


 ……


 ………


 「ふぅ…いかがかしら」

 「…」

 「…」


 私は男の味を知った。私の小説家しての引き出しに、新たな一ページが刻まれたのだ。しかし少々疲れた。全てを忘れて眠りたい。眠って全てを忘れたい。 


 「…まあこんなところかしら」

 「あァ…そうだな」

 「…どういう事だ?」


 ジェニファーはパチンと指を鳴らす。すると私は現実世界に戻り、ジェニファーの姿は消えてしまった。戻ったらしい。そして二人がゆっくりと語りかけてきた。


 「…テメェ、本当にそのキャラが望む行動とか、するであろう行動とかちゃんと考えてンのか?」

 「信念無く、その場その場で都合よく動かされるキャラクターの気持ちを考えなさい。そんな矛盾は見る方も、動かされる方も溜まったもんじゃないの。今、貴方もそうだったでしょう?」


 …確かに、私は展開に固執するあまり、キャラクターの整合性を取れていなかったのかもしれない。最近書いていて矛盾に思っていた事はこれだったのか。まさかこれを伝える為に二人は…


 「…ありがとう、君たちをないがしろにし、大切なモノを見失っていたようだ」

 「わかりゃ…良いんだよ…」

 「私を輝かせるために、全力を尽くしなさい。それだけよ」


 そう言うと、ふと視界が暗転し、声が聞こえなくなった。能力が終わったのだろう。

 しかし最後、アレックス元気無かったな…おそらくああなるとは想定外だったのだろう。間違った体の張り方をしてくれてありがとう。


 私はペンを執る。頑張ってあの二人を輝かせなければならない。それが私の作家としての使命だからだ。

 しかし一方が体を張って、一方が張らないなんて、不公平だろう。筋さえ通っていれば、きっと矛盾した行動だって伏線になるし、信念だって宿るのだろう。そんな展開に振り回されるのも良いはずだ。


 とりあえずキャラの方も、作者の気持ちがわかっていても損はないはずだ。









 ある夜のベッドの中。どこか遠くから、ちょ、ラッキースケベって何…ギャァァとか、あいつわかってんじゃねーか…グヘへとか、屈辱…あいつ絶対に許さないわとか聞こえてきた気がした。


 文句とか感謝があるならまた直接言いに来な。そう思いながら、ちょっぴり良い気分で明日の朝を迎えられそうだった。


 

 

 

 


 

 

未熟な私に良ければアドバイスお願い致します。


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