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PAST  作者: 日下 悠夜
3/29

過去の街2


 タクマは幼い自分に連れられ、自宅の玄関をくぐる。


「ただいまぁー。母さん。訳あり少年を拾って来たぁー」

「えっ?こら、人様を犬や猫みたいに拾ったなんて言わないの」


卓真の言葉に、女性が玄関まで出てくる。それは、今とあまり変わらない五年前の母親。


「家出して行くところがないんだって。しばらく家にいてもらっていいだろ?」

「名前は?」

「タクマです」

「あら、家の子と同じ名前なのね。私はこの子の母親の奈々。上がってちょうだい」


女性――奈々に勧められ、タクマは家に上がる。記憶にあるのと何一つとして変わらない家。でも……。


「うち、母子家庭だから気兼ねしないでね」


奈々はタクマをリビングに上げ、ソファーを勧める。


「タクマ君のこと、もうちょっと詳しく教えてもらえないかしら。ご両親も心配しているでしょ」

「……世の中には、子を疎む親もいるんですよ」


タクマは目を伏せて言う。自分が親に疎まれているとは思わない。母親は女手一つでタクマを高校へと進学させてくれた。再婚相手の男もタクマを疎むようなことをせず、むしろ親切にしてくれている。内心で、未来にいる両親に謝った。


「何も聞いてほしくないと言うことよね……タクマ君、いくつだったかしら?」

「十六です」

「未成年かぁ」


奈々は首を傾げる。高校に通わず、働いている子だって存在する。そう、思えばいいのだろうが……。


「母さん、仕事は?」

「いけない!!納期が近いのがあるんだった!!」


奈々がバタバタとリビングを出ていく。


「SOHOでウェブデザイナーをやってんだよ。忙しい人だけど、気にすんなよ」


卓真が冷たいお茶を持ってくる。


「そう言えばさ、着替えとかどうするんだ?俺のじゃ、小さいだろ」

「……あー、何も考えてなかった」

「買いに行くか?晩飯の買い物に行くし」


そう言えば、忙しい母と変わって、食事を作るのはほとんどタクマの仕事だった。懐かしいなと微笑む。


「かーさーん。何かいるものあるか?」

「タクマ君用の新しいシーツ。あと、お酒ー」

「またかよ。わかったー」


卓真と奈々の声が聞こえる。よく、母親と二人で飲んだ。昔から、母の晩酌に付き合っていた。いつからだろうか。それが、ジュースからアルコールに変わったのは。


「うっし。行くか」

「ああ」


タクマはポケットの中に手を入れる。財布と携帯電話が入っていた。携帯電話は使えないとしても、お金は使えないこともないだろう。卓真と共に家を出た。


「好き嫌いってあるか?」

「いや。一応何でも食う」

「俺も。一緒だな」


無邪気に笑う卓真に、苦笑を隠せない。それは、同一人物だから。五年後の自分なのだから。同じでなくてはおかしいだろう。


「晩飯はすき焼きでいいか?」

「ああ。何でもいい」


二人並んで歩く道。通い慣れたスーパーまでの道なのに……。


「先に服でも買おうか。ここ、安いんだ」


タクマの思考を卓真が止める。卓真が指すのは、高校生の頃、よく来た古着屋だった。


「下着は違うとこで買えばいいだろ」

「お前が行きたいんだな」

「あっ、バレた?」


タクマは笑う。自分はこんなにわかりやすい人間だっただろうか。それとも、自分だからわかるのだろうか。


「いいぜ。行こう」


タクマは先立って中に入った。




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