序章
貴 方 は 過 去 に や り 残 し た こ と が あ り ま すか ?
大型バイクに跨って、青年たちは出かけた。遠出をするのもいい。ちょっとそこまで走らせて、ぶらぶら商店街を歩くのもいい。そんな気持ちで、青年たちはバイクを走らせた。
も ち ろ ん 沢 山 あ り ま す よ 。
越智卓真と成瀬尋都は大学で入ったサークルで知り合った。話してみると、趣味はツーリングと同じで、不思議と考え方も似ていた。だから、気がつけば親友と呼べる仲になっていた。
そ れ で は 、 貴 方 に チ ャ ン ス を 与 え ま し ょ う 。
今日の気分は遠乗りではなかった。二人は隣町まで走らせた後、バイクを置いて、大通りを歩く。
ふと、アクセサリーを売っている露店に目が向いた。
「尋都、ちょっと見ていいか?」
「ああ。俺も見たかったんだ」
小さな露店に大柄な青年が二人、並んで座り込む。
「卓真、それ、いいな」
尋都が卓真の手にした指輪に目を止める。
「だろ。もう一つ同じのがあるぞ。ほら」
同じデザインの指輪を尋都に渡す。少し幅広の指輪。十字架が彫金された銀の指輪。はめると、まるで自分のために作られたかのように、ぴったり収まる。
「お前さんら、それが気に入ったのかね?」
露店の店主である老人が声を出す。
「はい」
「これ、いいですね」
「それは、曰く付きでね。過去に帰る扉の鍵だそうだよ。一つだけ、やり残したことをやらせてくれる」
老人の言葉に、青年たちは言葉を失った。
「買います」
後悔していることは沢山ある。やり残したことも。やり直したいことも。それは、星の数ほどある。
「まいどあり」
老人はニヤリと笑って、金を受け取った。そして、一度指輪を受け取ると、小さな紙袋に入れて青年たちに渡す。
「今宵、月光の下ではめてみなさい」
今 、 時 は 満 ち た 。
卓真の家でコンビニの弁当という夕食を取る。いつもはどんな食事でも、話題はある。だが、今日はいつもと違い、二人とも言葉数が少なかった。
「今日は満月なんだ」
尋都がポツリと呟く。まるで、過去に帰るという二人のために準備されたかのようだ。
やり残したこと、やり直したいこと。重石のように深く胸の内に巣作っていること。
「いつまでもこうしちゃいられないな」
「ああ行くか」
青年たちは家を出る。そして、人気のない場所、闇の多い場所へと向かう。過去の扉の鍵と言った、老人の言葉を信じた訳ではない。それでも、嘘と思えなかった。指輪をはめることによりどうなるかわからなかったから、少しでも人気のない場所を目指した。
人が消えても驚かれない人気のない場所。
何も起きなくても、がっかりした顔を見せない闇の多い場所。
そして、小さな街灯が一つあるだけの、人気のない児童公園にたどり着いた。
「じゃあ、逝くか」
「ああ。また会おう」
青年たちはおそろいの指輪をはめる。
Prologue end.
→The next episode “Past City”.
To be contine.