苦風
卒――尽への征伐開始!!
ヤバい新敵キャラ登場!!
世歴八百四年四月十九日の午後一時頃――遂に卒(旧佞邪国)から尽征伐の軍が動き出した!その兵力――三千!卒の全兵力四千の過半を超えている!
この尽征伐――卒にとっては建国以来初の一大事業である!
この征伐の責任者である“将軍”を摂政皇太子である俊雄が務め、俊雄と共に尽の尽子方面へ進軍する将が――丞相(宰相)の清乾!
そして過穀方面へ進軍する将がこの男!氏が『面』、名は『泥』、字が『苦風』という地方知事である!
この『苦風』……元は残忍な盗賊で、その際に直接殺した人数は――少なくとも十を超える!人の命の重さなぞ――この男にとってはそこらへんの害虫以下……。
この男を兵力として雇う釣幻も最低限しか関わらない程……危険な男……。
その上さらにこのような危険な男が、自身と同類の人間を従えている……。
結果――苦風を指揮官である“校尉”に戴く地方団は、人工的な災害と化している……。
その災害が征くところ――略奪や虐殺をしない所はない……!
一方の尽側では――既に卒の動きを完全に読み切っており、尽の軍は衛団と中団は過穀で決戦の時に備えていた!しかも皇帝たる陽玄も過穀にいる!
なお過穀へ至るまで最短ルートを使ったが、そのルート上には敵国の自治領である玉連藩の領域がある!しかし、当の卒が今日に尽を“敵国”と認定したばかりである以上、昨日の時点ではまだ“敵”ではない……。
だからといって易々と通れる領域でもないので、尽の軍は“建国の挨拶に参った”と――あくまでも“使者”としてその領域に入国!それから一晩の休憩をはさんで、過穀に着いた!しかも疲労の程度を最小限に抑えて……。
玉連藩側も尽の“使者達”が自領に参った時は――
「自軍の兵力の倍もの使者が――武装してやってくるのか!?」と警戒していた!
もちろん、尽の真の目的が――過穀への最短ルートを使うことだと分かっている!
しかし、わざわざ“皇帝”が直々に挨拶に参った以上、断れば宣戦布告の口実を尽に与えかねないので、結局は尽の挨拶を笑顔で迎えることと羽目になった……。
それに「卒朝の名に泥を塗ってしまうので……その時は他国に無礼を働く訳にはいきませんでした!」と卒に言い訳もできるではないか……。
世歴八百四年四月十九日の午後一時頃 過穀 尽(旧京賀国)軍総本陣
「いよいよ遂に……我らと塔高(釣幻の氏名)との長き因縁も、雌雄を決する時が来た!」と天幕内に響く貴狼の声!
「!!」
すると天幕内にいる将兵達は一斉に首を縦に振る!
「皆の者!此度は尽の建国以来初の対外戦争である!
我が義父である――祖宗陛下(鈔狼)を辱めた塔高を……必ずや討つのだ!」
この陽玄の声に、天幕内は将兵らの「おおおおおっ!!」という気合に包まれた!
もの将兵らの声は――地を割き天に届かんばかりであったと伝わっている……。
現時点で過穀には衛団(親衛隊)と月清率いる中団が駐屯している!
それらの兵力の合計は二千!尽の総兵力のほぼ半分を占めている!
さらに自国の必要防衛を考えれば、過穀には動員できるほぼ全兵力が集結!
あとは予め練った計画に従い、兵を動かすだけ……!
それと過穀の民達も予め非難させているから、思う存分戦える!
ちなみに尽の方も、卒と同じように皇帝である陽玄が“大将軍”と務め、陽玄に仕える摂政である貴狼も“将軍”を務めている。
世歴八百四年四月十九日 午後十時頃 過穀 中心部門前
「やけに静かだな……。それに千程の松明挙げてるのに、一人も人がいねえ……。既に逃げられたか……」と馬上で悔しがる苦風。
地方団を引き連れて過穀を無傷で手に入れるは幸いだが……。
――つまらん……せっかく久々の大量虐殺が楽しめると思ったのに……。と内心でイライラする苦風。この時の彼は殺人に楽しさを覚えている。危険の域を超えていた……。
「でもお頭!これだけ早く逃げてたってなると、お宝があるかもしれねぇ!」と一人の兵が苦風に話しかけると、苦風は「そうだなぁ!」とニヤリとして――
「てめぇら!街中を探し回れ!宝が在ったら、先ずは俺のところに持って来い!」と号令!
すると地方団計千名に上る将兵達は皆一斉に「おおおおっ!!」と雄叫びを挙げると、何かから解放されたかのように街中に散っていった……。しかも目を血走らせて……。
もう彼らの頭には“宝”ではなく“略奪”できる喜びしかない……。
彼らは街中の家屋の戸を蹴飛ばしては――奪える物を全て奪い去らっていく……。
既に主要な金品や貴重品は、過穀の住民の避難と共に持ち去られていた。
しかしそれでも地方団は、目を皿にして少しでも価値ある物を探し続けた!
笑いが止まらない苦風……!?