卒王朝
周辺諸国で一番尽に敏感な国……。
陽玄を今上皇帝(当代の皇帝)に戴く“尽”王朝の成立から翌日……。
須座国を除いた南部の旧長王朝の諸侯国は零尽の建国に不信感や不快感を抱きこそすれ、当の尽に敵対反応を見せるようなことをしなかった。
北方の『縁』は昨日の陽玄の即位式の直後に、不可侵条約を更新。
東方の『直』に至っては無反応……。
このように周辺諸国の反応は微々たるもの。西方の唯一国を除いて……。
世歴八百四年四月十九日 午前九時頃 卒(旧佞邪国) 宮殿
「皆の衆、心して聴けいっ!」と玉座の間に響く卒の今上皇帝――釣幻の第一声!その片手には自国の新聞が握られている。
その新聞の内容はもちろん――昨日の零尽の建国についてである!
「昨日――廃帝翠(鈔狼)の娘婿となったあの京賀王(陽玄)が……廃帝から譲位を受け……帝位に就き、『尽』という国を建国した!
この『尽』が廃帝の……無力な『長』を引き継いでいるとならば、天に代わってその『尽』とやらを滅ぼすのが――我らが『卒』の大義である!」
「陛下!いよいよ……来たるべき時が来たのですな!?」
この釣幻の演説を聴き終えて、真っ先に嬉々として口を開いてみせたのが……卒の録尚書事(副宰相)にして司隷校尉(首都の指揮官)である長目である。
そんな長目に「その通りだ!」と嬉々として答えた釣幻はそのまま――
「今日まで尽を滅ぼす策を隠してきたが、この今日にその策をお前達に授けてやる!」とドヤ顔!これに応じて、衛兵達が玉座の間の真ん中に地図を広げた!さらに別の衛兵達がその地図に様々な軍隊符号を置いていった……。
「よいか!? 先ず我が地方団(一個連隊規模の部隊)が尽の南方に位置する『過穀』を攻める!これに尽は、一団を『過穀』の奪回に向かせるはずだ!
すると尽の尽子の護りは手薄になる!
この手薄になった尽子を……俊雄の“衛団”と清乾の“中団”が尽の尽子を一気に攻めるのだ!」と指揮棒を使いながら配下の将達に説明していく釣幻!その瞳は――既に勝った!と言わんばかりに輝いている!
そんな自信満々に策を述べた釣幻に、彼の息子で卒の摂政皇太子でもある俊雄が――
「陛下。気になる点について申すことをお許し頂きたいのですが……」と挙手。
これに俊雄に芽生えた不機嫌さを隠して「何だ?」と返す釣幻。
すると俊雄の口からは「この策の全団の中には、『玉蓮藩』の団が含まれておりませんが……?」という疑問が飛び出してくる。
ちなみに『玉蓮藩』とは卒の自治領である。その藩主の地位も世襲。
「前日に使者をそこへ派遣したがな……『我が兵は弱兵ばかりで帝の御兵の足を引っ張るばかり!故に此度の尽征伐は断念願いたい』とな!」
「陛下っ!! 何故、今日まで藩の兵権に御手を付きになら勝ったのですか!?
まさか……『藩主閣下とのなじみ』故とは仰りませんな!?」
釣幻の返答に、俊雄は非難がましく食ってかかる!しかし……。
「今更過ぎたことを申すものでないわ――俊雄!
一応……玉蓮藩は『兵糧の支援は惜しまない!』と返事しておるのだ!
そんな属国をぞんざいに扱っては後の懐柔に影響する!
それに藩が此度の征伐に加われば、事の成否にかかわらず発言力も大きくなる!そうなることは我が王朝にとって面白くないことは分かっておろう!」
この釣幻の猛反撃に、俊雄は渋々であるものの――
「……そのように藩が支援を惜しまないと言っている以上……私からは何も申すことは御座いません」と引き下がる他なかった……。
例え“皇太子”といえでも、“皇帝”との差は平民と同様!
反逆なぞ論外、無理にでも反抗しようものなら容赦なく――死!ある意味、平等。
続いて卒の若き丞相(宰相)にして中校尉(中団の指揮官)の清乾が――
「陛下……私からも発言を申してよろしいでしょうか?」と挙手。
これに釣幻が「何だ?」と許可すると、清乾の口から――
「ここに地方団の校尉である苦風の姿が見えませんが?」と言う疑問!
これに釣幻は「あのような下賤な者を何故――この神聖な間に呼ばねばならぬのだ!?」とキレる。よっぽどその『苦風』を毛嫌いしているようだ……。
これに俊雄はキレている釣幻を宥めるように――
「御怒りはご尤もです!ですが苦風の団を動かす以上、この重要な軍議に呼ばぬのは――」と諭そうとするが……。
「既に苦風への軍令は決しておるのだ!ただ『過穀へ征け』とな!
その軍令を――俊雄、苦風にお前が伝えてこい!」という釣幻の猛反撃!さらに指まで指されて命令されている以上、俊雄は「御意!」とその命令を受け入れる他ない!自分だって苦風に会いたくないのに……。
卒の大将軍といえば……!




