月道と月清
ほぼ17歳に見られない……月道……。
「慣習については憂う必要は御座いません!
何しろ、大帝陛下(陽玄の御先祖)らの在位時に関する慣習は一切伝えられておりませぬ!それに無理に慣習に則ったところで評価される現代でもありませぬ……」
ここで貴狼は陽玄を欺いてみせた!
実は大帝陛下らの在位時に関する慣習というものは事細かに記録された書は確かに秘蔵されている。とはいえ、陽玄の手が届きにくい書庫にだが……!
「……!」
陽玄の方も自身の直感で、貴狼が自身を欺いていることに気付いていた!
しかし証拠がない以上は臣下を咎める訳にもいかず、当の証拠も探すのが面倒な所に保管してありそうなので――陽玄は黙って目で抗議するに止めた……!
「あのなぁ……陽玄!だれも京賀国にはお前に不自由させようなんて考える不敬な奴はおらん!貴狼がお前に帝位を薦めるのは――お前を自由にするためぞ!」
この鋒陰の言葉に、陽玄は「予を自由に……!?」と心を揺さぶられる!
「そうぞ!極論――この世界じゃ“王”は“皇帝”の一奴隷で、不自由なものぞ!
お前――あんな釣幻の奴隷になって楽しいと思うか!?」
続く鋒陰の駄目押しに、陽玄は「思える訳なかろう!!」と反撃するも――
「でも今の長帝陛下(鈔狼)の臣下でも十分自由ぞ!」とまだ己の主張を曲げない!
完全に喧嘩寸前となった陽玄と鋒陰。その証拠に互いの目を見つめて重なったその視線からは――今にも見えない火花が「パチパチ!」と散っている……。
ここで貴狼が「残念ながら、当の長帝陛下が不自由に感じ取られておるのです!」と陽玄に声を掛けた!陽玄の主張を真っ向から崩していくように……!
これには陽玄、「どういうことだ……?」と面を――鋒陰から貴狼に移す!
「既に長帝陛下は“皇帝”という位に戴かれることに辟易したのです!
あの悪名高きの塔高(釣幻の氏名)に……御自身の目の前で兄帝を廃され、即位させられた後も塔高の悪行愚行に目を瞑らねばならぬ日々を過ごされたのです!
その上、それらの日々の全ての一日は――塔高の支配下にあったのです!
これほど不自由な思いをしておられて、なおも長帝陛下に不自由な思いをさせるのは不敬の極まり!臣下の道を大きく外しておりますぞ!」
「……!」
貴狼の実感がこもった諌言に、ぐうの音が出なくなる陽玄……。
「陛下!ここは摂政としてではなく、皇帝陛下の旧臣――いえ、友の一人として……我が願いをお聞き届けますよう……!」と頭を深く下げて陽玄に請願する貴狼。
これに続いて鋒陰も「皇帝になってくれよーっ、陽玄っ!なってくれなきゃ泣いちゃうぞーっ!」と畳に寝そべって手足をじたばたと動かして駄々をこねる鋒陰。
こんな五歳相応な反応をする鋒陰にドン引きする貴狼と陽玄。
二人とも鋒陰の駄々のこねようが嘘だとは見抜いているが、その内の半分が真実だとは思わなかった。いや……思えなかったのである……。
結果、陽玄は「一晩だけ考えさせてくれ……。即答なんぞ無理ぞ……」と自身の部屋へと向かう。そんな陽玄の背中に向かって、貴狼は――
「畏まりました……!ですが……もし帝を継ぐならば、私に御声をおかけ下さい……!
良案がございます!」と再度請願したのであった……!
ここで、世歴八百四年四月十日の話は終わり、時系列は世歴八百四年四月十八日の午後に戻る。もちろんその舞台も尽子の宮殿の門前に戻る。
月清から、今月十日の夕方過ぎの陽玄の反応聞いた月道は「ほえーっ……!?」と驚きの声を漏らす。その目もどこか虚ろである……。
「あの陛下の頑固なところが、月道に『そっくりだ!』と摂政閣下(貴狼)が述べておりましたよ……!」と笑みを浮かべる月清。
これに月道は「なんじゃ!『頑固』とは……!」と不満を述べて、直後にその頬を「むすーっ!」と言わんばかりに不機嫌に膨らませる……!
しかし月清より幼く見えるせいか、膨らんだハリセンボンと同じような妙な可愛さがあって、しょうがない……。これに月清は「ふふっ!」と笑う!
「なんじゃ、お主!どこがおかしいのじゃ!」と月道は向きになって月清に掴みかかるが、当の月清にその拳を逆に握られ――
「あはははははっ!」と逆に笑われる始末。無論、楽しいが故にだが……。
月清の本心は――月道との日常が返ってきたという嬉しさから……。
このような月道と月清のやり取りを見ていた陽玄と貴狼。
その内の月道を見た貴狼は「あれが『高祖』で、『父』の姿でしょうか?」と先が思いやれると言わんばかりに陽玄に尋ねてしまう。駄目元で……。
しかし陽玄は微笑んで「良い……少しの間だけそのままにしておけ……」と返した……。
次回予告:他国の反応……!




