廟号
まだ油断できない……建国期……。
世歴八百四年四月十八日 午後一頃 尽(旧京賀国) 尽子 宮殿
現在、宮殿では“零(陽玄の氏名)尽”の建国を記念した昼食会が行われている。
さらにこの昼食会では各々の任地に就く官吏達の送別会も兼ねている。
宮殿では先の即位式に参加した尽王朝の政府高官のほとんどが参加している。
その宴の席で真藤は自身の隣席にいる先輩格の紫狼に向かって――
「あの……訊きたいことがあるんですけど……!」と声をかけてきた。
すると紫狼は「何かな?」とすぐに応じる姿勢を見せてくれる。
「この世界って、昔にも一国内の“皇帝”が一度に何人も即位したことあったんですか!?」という真藤の疑問。先程の即位式じゃ計十人、尽王朝の皇帝が誕生している。
「あったね……!でも実際……真藤が前にいた世界にもあったよね?」
「そりゃぁ、“皇帝”とか“国王”とかを“追尊(その人の身分に応じて君主号などの尊号を送ること)”される例は前いた世界にはありましたよ!
けど一度に十人を追尊するのは聞いたことがなかったんですよね……!」
「まぁ、御先祖陛下らのそれぞれの王朝を継ぐとなると、どうしてもね……。
それと……太聖陛下(陽玄)の御両親方も『それぞれの王朝の末裔だから、追尊していないと不自然だ!』って摂政がね……」とここまで真藤に述べてみせた紫狼。その内心には――太聖陛下御自身も親への追尊を望んでいたけどね……。と。
「もうひとつ……太聖陛下の『太聖』とか、太霊陛下の『太霊』についてなんですけど。
十中八九、高祖陛下(月道)の『高祖』と同じ“廟号”だと思うんですけど……。
廟号を御存命の方に送ったりするってのを全く聞いたことがないですけど……?
しかも『聖』とか『霊』とかっていう廟号の種類も聞いたことがないんですけど……?」
「そこはこの世界でも初めての試みだからね……。
考案者の摂政があまり教えてないから、詳しいことは分からんよ……。
ただ『霊』は生き返らない御先祖陛下らに贈られることだけは聞いてる……」と真藤の質問に答えきった紫狼は、自身の昼食に箸を戻していく……。
まだ尽王朝の長い建国期は――始まったばかりである……。
これからの食事の機会もより貴重になることだろう……。
世歴八百四年四月十八日 午後四時頃 尽(旧京賀国) 尽子 宮殿 門前
「では兄上――いえ、高祖陛下(月道)……行って参ります!」
自身の兄に挨拶する月清!彼はこれから中校尉として、中団(一個連隊規模)を指揮すべく――その任地へ向かう直前のところ。
「なんじゃ『高祖』って!いつも通り『兄上』で良いのじゃ!」と月清に強制する月道。自身への『高祖』という敬称に相当御不満の様子。
そんな月道を宥めるように、月清は――
「分かりました、兄上!」と笑みを浮かべて月道に返してみせる。
「それにしても……陽玄もとんでもない親不孝してくれるものじゃ!
皇帝なんかに列せられても窮屈な思いをするだけぞ!」
このように不満を述べる月道を見た月清は――
「こうして兄上を見ていると……太聖陛下も兄上に似てきましたね……!」と微笑むまま。
これに驚いて「へ?」と素っ頓狂な声で返してしまう月道。
「実は太聖陛下御自身も……帝位に就かれるのは『窮屈』だとお思いだったんですよ!」と月清はそう月道に告げると、当時のことを話していく。
ここから先は、世歴八百四年四月十日に遡って、その舞台も夕方を過ぎたばかりの政庁に移る。この時、既に貴狼は尽子中のどの新聞社よりも早く、釣幻が長王朝に対し易姓革命を起こした情報を掴んでいた。
ちなみにそれを掴んだ情報網については機密事項となっている……。
そこから貴狼は易姓革命を起こした釣幻に対抗して、「陽玄も帝位に就くべき!」と陽玄に奏上したが、当の陽玄は即――
「やじゃ!! 予はまだ何も成しておらぬのに……帝位なぞに就けるか!」と激昂!
「でも帝位に就かずに忠義を貫いても、『廃帝を傀儡にする諸侯』と内外から謗りを受けるだけぞ!」と冷ややかに陽玄に告げる鋒陰。
陽玄の王位昇進に伴い、太師(君主の師)に昇進した五歳児……。
「構わん!そんな心ない者共の言葉なぞ耳を貸さぬ!」と取り乱す陽玄に――
「あのなぁ……陽玄。心がなくて謗る者はおらんぞ!」と呆れる鋒陰。
王である陽玄に友達口調を用いることができる数少ない友人。
「それに……」と何かを呟きそうな陽玄。先の取り乱しようが嘘のように静まっている。
これに貴狼が「何でしょう陛下?」と促してみると――
「それにもし帝位に就いても、きっといろいろな慣習に縛られる行動するだけ……。そんなのつまんないぞ……!」と陽玄はどこか悲しげにそう答えた。
次回予告:似ている親子……。




