帝位継承
名案――閃く!
「何か……良い案が浮かんだそうで……!」と嬉々として声をかけてきた貴狼に――
「それは貴殿も同じだろう!もったいぶらずに四つ目の案も言ったらどうだ!既に考えてきてるんだろう?」と青月笑みを浮かべたまま返してみせた!
ちなみに青月は、貴狼を京賀国の摂政に推挙した一人でもある!
「では、四つ目の案を申しましょう!」と貴狼が口を開くと、そのまま――
「長王朝の帝位を継承することです!」と案を述べてみせた!
これに月道が訝し気に頬を膨らませて――
「それって『禅譲(血縁者でない人物に位を譲ること)』という『簒奪(悪い意味で君主の地位を奪取すること)』ではあるまいな?」と問う。
そんな月道に、貴狼は余裕の笑みを浮かべて――
「なにも禅譲や簒奪をする必要は御座いません!
血縁者でない者でも――帝位を継承することは可能です!」と返答してみせた!
「?」
答えが予想できない月道に、貴狼は余裕の笑顔を引き締めて――
「我が王が長帝陛下の御息女殿下と結婚し、長帝陛下の娘婿――義理の息子となることです!さすれば――禅譲に近い形となりますが、長王朝の典範に則って帝位を継げます!」と答えを述べてみせた!
直後――議場は静寂包まれた!そのほとんどは驚きのあまりで……!
月道は驚きが抜けずに目を丸くしたまま、貴狼に向かって――
「でも……鈔狼(長帝の字)にも息子はおるぞ!」と問う!
「長帝陛下が立太子の礼を執り行ったことは一度たりとも御座いません!
それ故に“皇太子”の位は空白となっておるのです!
それに上配殿下(月道)は知らなかったでしょうが……去年あたりに長王朝の上昇だった頃の卒帝(釣幻)が典範を改正して、帝位継承を“長男子相続制”に変えたのです!」という貴狼の説明に、月道は「何じゃ、『長男子相続制』って?」と訊き返す。
「長子である長男でなければ帝位を継承できないという制度です!」と貴狼が答えると、月道は堪らず「なんじゃそりゃ!?」と怒りの声を上げてしまう!
どこの異世界でも必ずしも長子が男子で生まれてくるとは限らない!
それなのに、長子である長男しか告げないとなると、継承者――いなくなる!
仮に運が良くて長子が長男であっても、代を経ると必ずその時が来てしまう……。
ちなみにこの制度に、長女子(長子である長女)の性転換は通用しない……。
「改正はできんのか!?」と月道はなおも諦めずに貴狼に問うと――
「改正はできますが、当の長帝陛下が『是非、帝位を京賀王に!』と聞かんのです!」という思いもよらない答えが貴狼の口からとび出てきてしまう……。
これに月道は「えっ……!?」とまたも目を丸くしてしまうばかり……。
「故に長王朝の継承者は長女子の娘婿だけです!ここは長王朝のためだと思って――」
「この際、帝位継承は認める!でも陽玄に政略結婚させるなぞ、親として断固反対ぞ!」
貴狼の説得に、今も抵抗を諦めない月道!いくらこの乱乱乱世だからといっても、自分の息子と親友の娘を無理やり結婚させるなぞ――言語道断である!
こればかりは、月道の妻で陽玄の母でもある照泉も、月道の言葉に静かに肯いてみせる……!
そんな夫妻に、貴狼は笑みを浮かべて――
「その点はご心配なく!御息女の殿下は我が王と両想いです!」
直後――月道は「まっ……真か!?」と開いた口が塞がらない!
「……!」
照泉も着けている着物の袖で、塞がらない口を隠す!だが丸くなっている両目は隠しきれていない……!外から見えてしまっている……!
「左様で御座います……!」と止めを刺す様に平手で陽玄がいる方向を示す貴狼。
その先にいる陽玄は――頬を赤らめて、両親から顔を逸らて目を合わせない……。
これに「あっ……あっ……!」と感動のあまり、声を詰まらせて涙を流し始める月道。
すると青月が月道の正面から覆うように抱きしめてあげる。
「心配するな……月道!陽玄は何所にもいかんぞ……!」と青月が月道に語りかけると、月道は「うん……!」と静かに首を縦に振る……。
さらに照泉も涙を流している面を袖で覆うように隠している……。
「泣くのは早すぎますぞ、御二方!まだ婚礼の日付も言っておりませんのに……!」と貴狼が月道と照泉の二人に呼びかける貴狼!静かに笑っている……!
これに月道が、青月の胸から離れて涙を拭い、笑みを浮かべて――
「そうじゃな……!それで婚礼の日はいつになるのじゃ……?」と問う。
すると貴狼は「即日――今日の夕方あたり儀式を執り行います……!」と答えた!
この貴狼の答えに、月道は――泣くの……遅すぎた……。と内心で後悔するばかり。
当の陽玄に至っては知らないが故に「えっ……!?」と呆然!
「……!?」
議場に至っては、驚きの余り誰も声を発する者がいなかったそうな……!
いざ――継承へ……の前段階!