号外
翌日の京賀国……。
世歴八百四年四月十一日 午前七時頃 京賀国尽子
「号外、号外!! 昨日、佞邪王が丘幸を制して――帝位に就いたぞっ!!」
京賀国の尽子の中心街では、配布員達が忙しなく走りながら号外をばらまき始めていた!その後ろでは人々がばらまかれた号外を次々に手を取る!
それらの号外の題名には『佞邪王、皇帝に!!』、『卒王朝爆誕!!』、『塔卒建国!!』と新王朝樹立の観点から付けられたものが多数!
そして『長室、放伐(都から追放すること)さる!!』、『長王朝崩壊!!』、『子木長亡国!!』と旧王朝崩壊の観点から名づけられた題名も少なくはなかった……。
それらの号外を読んだ人々の反応は――遂にか!と言わんばかりに無反応!兵力を持たぬ王朝の寿命なぞ最初から知れたことの様子……。
それにこの乱乱乱世において、王朝の交代やら分裂やら独立なぞ耳に胼胝ができるほど聞き慣れてしまったこと……。
結果――尽子の人々の視線は関心を込めて政庁へと向けられる!
――新しき悪しき卒王朝に降るのか。
――旧き良き長王朝を助けるのか。それとも……。
一方――尽子の政庁では、昨日に樹立されたばかりの卒王朝に対する緊急会議が催されている!もちろん陽玄が臨関する御前会議でもある!
「既に周知のことだが、昨日――佞邪王が革命を起こし『卒』王朝を開いた!
この王朝に対し、我らはどのように接するかで京賀国の未来は決まる!」という同国摂政の貴狼の言葉で会議は始まる!ちなみに本会議の議長役でもある。
余談だが議長役の貴狼を補佐する書記役には、同国秘書の紫狼が務めている。
「早速、京賀国が採る選択肢を決めたい!
まず一つ目の案は、先程の『卒』に降って臣下になるかだが――」
「そんなの決まっておる!絶対に降らん!臣下なんぞ論外じゃ!」
貴狼が『一つ目の案』について言い終わる前に、激昂する陽玄の父――月道!
続いて、月道の長弟にして同国宰相である月清が――
「それにもし卒に降って臣下にでもなろうなら、隣国の緑が黙っておりません!
最悪は緑からの予防侵攻を招きます!危険すぎます!」と持論を展開!
さらに続いて、月道の長妹にして同国直隷知事である月華も――
「例え卒の臣下となった京賀国が緑との戦に陥っても、当の卒が助けてくれるとは限りません!それどころか、京賀国領土を手に入れる好機として、緑と結び侵攻してくることでしょう!」と持論を展開!
これら月道の兄妹の返答に、貴狼は満足して頷く!
――流石に、外戚とはいえども……我が王の一族としての気概はあるか……!と内心でも大いに満足しながら……!おかげで「ふっ!」と一瞬だけ笑みもこぼれる!
貴狼は再び顔を引き締めて、議場を見渡しながら――
「念のため皆に訊くが――この一つ目の案に賛成の者はおるか?」と周りに訊いてみる!
すると当の周りは「シーン……」として誰も口を開こうとさえしない!
月道に至っては――そんなの愚問じゃ!と言わんばかりに頬を膨らませている!
結果――貴狼は「では全員一致で一つ目の案は廃案とする!」と採決する!
だが採決の後であるにも関わらず、貴狼はそのまま間を置かずに――
「次に二つ目!京賀国はこのまま滅びた長王朝に仕えるか否かである!」と次の案を持ち出してきた!それにしても長王朝の直接の関係者がこの議場にいたら、涙を流してしまうであろうような物の言い方……!
またも月道が「なんじゃ、『滅びた』とは!?」と激昂する!
「事実を申したまで!既に号外も配られているではありませんか!
既に我が国のみならず、周辺諸国の民にもこの事実は広まっておるでしょう!」と王の父に出さえ怯まずに反論してみせる貴狼!上王“配”だからである……!
「例え丘幸を奪われても――京賀国が残っている以上、長王朝は滅びておらぬ!皆もそう思うであろう!」と負けじと周りに訊いてみる月道!
しかし、当の周りからは誰も手を挙げるどころか、口を開ける気配さえない……!
「……!」
信じられないと言わんばかりに、再度周りを見渡す月道!顔に至っては無表情!
これに月清が「兄上……残念ながら京賀兵には、長王朝に戦えるものはほとんどおりませぬ……!」と何所か苦しげな表情で残酷な事実を告げる……!
またこの議場にいる者達のほぼ全員も――楽しさや喜びと言った肯定的な感情を面に表していていない……!むしろ――否定的!
結果――月道は「何を言っとるんじゃ……?」と素っ頓狂な声をあげるばかり……!
ゲスト登場!?