秘密の首脳会談
新たな諸侯国……。
世歴八百四年四月十日 午前九時頃 京賀国尽子 政庁
陽玄ら一行が長旅を終えて自らの尽子に戻っても……休日はない!
帰国の翌日から現在!陽玄は、自身の一族の幼子達や表敬訪問中の諸侯との遊び相手を務めている!そこへ『長』の皇帝である鈔狼とその親族や一族が加わってくるのだから……てんてこ舞い!皇帝と親族の機嫌を保つという高難易度な任務!遊ぶこともしんどい仕事の内に入る良い例……。
そして貴狼も昨日の貴国直後から政務!その翌日の今日も政務!
現在に至っては、ある諸侯の宰相との外交に尽力している……。
「賊は消え、相互の主も“王”に!近頃は目出度いことが続きますな!」
貴狼に嬉々として語りかける――人当たりのいい青年!
彼こそが須座国の宰相である――氏が『竜』、名は『蛇』、字が『虚綻』という者!ちなみに見た目よりはるかに長生きしている!
ちなみに須座国の女君主の爵位は従来“子爵”であったが、本日付で仕えている『長』王朝の皇帝である鈔狼から直々に――“王”昇進の旨を告げられている。
戦勝祝いのついでのようである。何せ、他の諸侯も王位に昇進ときている。
これには他の諸侯へ恩を売りたい釣幻の意向も含まれている!
だが今回の須座の君主においては――鈔狼の意向も含まれている!
「まったくだな……」と貴狼が微笑を浮かべて応じると、虚綻が不敵な笑みで――
「世間話はこのくらいで、相互の“今後の展望”でも!」と話題を切り出す。
この虚綻の『今後の展望』に反応して、貴狼は自身らと同じ部屋で控えている紫狼に向かって手で――シッシッと払う!人払いの合図である!
なお先の虚綻の発言にあった『今後の展望』とは――貴国と秘密会議がしたいの合図!
それから紫狼が同じ部屋内の官吏達を連れていくと、この部屋の残っているのは――京賀国摂政の貴狼と須座国宰相の虚綻の二人のみ!
宗主国の佞邪国に絶対に知られてはいけない首脳会談の始まりである!
先ず虚綻が「この王朝いつまでもつと思う?」というところから始まる。不謹慎!
「佞邪君の爵位が“王”になった以上――この今さえも続いておらんかもしれぬ!」
この貴狼のより不謹慎な答えに、虚綻は静かに肯いて――
「あの酔っぱらいで気位が高い塔高(釣幻の氏名)ことだ!
必ず帝位を簒奪(君主の地位を奪取)してくるぞ!」と吐き捨ててみせる!
貴狼も「何せ先帝陛下(鈔狼の双子の兄)を、塔高の丞相就任時の乗りだけで廃し奉った男だもんな……」と呆れ気味に同調してみせる。
「で……それを見越して貴国はどうすよ?」
続いての虚綻の質問に、貴狼が慎重に「どういう意味だ?」と訊き返すと――
「もし丘幸で易姓革命が起こって、塔高が帝になった時……貴国は塔高に服従するのか?それとも抵抗するのか?」と虚綻は歯に衣着せぬ質問を貴狼にぶつけてみせる!
この時の虚綻、顔こそ笑っているが目は一切笑っていない。至って大真面目!
「……」
――即答は出来かねる!と言わんばかりに沈黙を守る貴狼。
自国よりも国力が大きめの佞邪国に対して、“抵抗する”のか“服従する”かという外交の選択……。だがどのカードを切っても――流血は避けられない天命……!
「今――丘幸にいるのは佞邪王とその一派だけだ!
現皇帝陛下とその一派が丘幸にいない現状を――あの男が見逃すわけがない!
そんな時――貴国に残された道は三つ!
丘幸に攻め入って、塔高に代わって長王朝の新たな盟主となる!
易姓革命が起こるのをこのまま見過ごして――『簒奪者を倒す!』と言う大義名分を得て、塔高らに立ち向かう……!
同じく易姓革命が起こるのをこのまま見過ごして、新たな廃帝とその一族郎党を塔高らに引き渡して身の安全を図るか……!」
「……!」
京賀に残されたであろう三つの道を述べてみせた虚綻に対して、貴狼は沈黙を守ったまま非難がましい視線を虚綻に返す!最後に述べた『道』が気に障った故に!
これに虚綻は「そんな目をしてくれるなよ……!」と弱ってしまう。
「貴殿から貴重なご意見を頂けることは……ありがたい……!
だが、新廃帝らを塔高に引き渡しとしても……京賀国は生き残れん!」
この貴狼に発言に、虚綻は「心情的な面を一切省いてでも?」と掘り下げる。
「左様!廃帝の身を引き渡しても、塔高が京賀国の身の安全を保障するとは限らん!それどころか塔高の性格上、その次もより無茶な要求をしてくる!
それに、京賀国の隣国に位置する『縁』は――京賀国を緩衝国扱いしておってな……。京賀国と佞邪国の仲が深まることを良しとせん国だ!下手すると予防占領されかねん!」と貴狼は反論を述べていく……。
次回予告:須座国への要請!