長の皇帝
長王朝の皇帝――現る!
「この暖沼の遺体――どう始末をつけるおつもりで?」と釣幻に尋ねる俊雄。
何時の間に、この部屋を訪れていたのか……。
「“いつも”のように始末しておけ!」と俊雄に命令を下す釣幻!
ちなみに『いつも』は――遺体を燃やして灰にした後に闇葬儀社に引き渡している。
「御意!」と応じる俊雄。その直後に彼は後方に向かって、顎で合図を送る!
すると、後方から何人もの兵が部屋に駆け込み、暖沼の遺体を持ってきた袋に入れて片付けると……そのまま俊雄に率いられて部屋を辞していった……!
これと並行して、“毒入り”の徳利と猪口を持ってきた侍従も、盆にその徳利と猪口を載せて片づけて――部屋を辞していった……!
こうして佞邪救国政府開闢の頃から、数々の政敵を毒で始末してきた暖沼は――それらの政敵と同じように……始末された……。
佞邪救国政府の最後の指導者として――京賀国に佞邪救国政府の全領土を譲渡してしまったことが……釣幻の逆鱗に触れたためであった……。
なお、暖沼の遺体がこの部屋から片づけられたことを確認した釣幻は――
「さて……これでやっとうまい飯が食える!」と上機嫌で別室へと向かった……!
世歴八百四年四月六日 午前八時頃 佞邪国丘幸 宮殿
「丞相大将軍佞邪侯爵塔高(釣幻)が――皇帝陛下に拝謁致します!」
この王朝内で至高の存在に頭を深々と下げる釣幻。
これに至高の存在である凛々しい顔つきの少年は「面を上げよ!」と応える!
この少年こそ、佞邪侯の釣幻や京賀伯の陽玄などの『長』王朝内の全諸侯らの盟主である――皇帝である!その当代の氏は『子木』、名が『翠』、字は『鈔狼』!齢―十八の若君!流石に幼君とは呼称しがたい……!
今回、佞邪侯と京賀伯らを王位に格上げする儀式を執り行う身として――その服装も豪華!緑を基調とした御礼服に身を包んでは、冕冠をも着用!その冕冠に至っても、前後のそれぞれに十二の旒(流れるように垂らした玉飾り)を垂らしている冕板が乗せられている!これぞ――大陸から伝わる皇帝の証たる冠!
面を上げた釣幻に、鈔狼は無表情に淡々と――
「此度の乱の平定ぶり――見事であった!
その功によって――朕は今を以て塔高(釣幻の氏名)を“摂政”に任じる!
並びに“佞邪王”に陞爵(爵位の昇進)する!」と釣幻に告げる!
これに釣幻が「ありがたき幸せ!」と応えると、鈔狼は「下がって構わん!」とだけ告げる。すると釣幻は「御意!」と応えて自分の席へと戻っていく。
二人の異様に短い事務的なやり取り。それは釣幻の脚本である。
長めの行事が退屈な釣幻が、丞相の権限でそのように作ったのだ!
当の鈔狼もこの脚本を提出された際には、躊躇わず採用!
何故に、先代の帝に『廃帝』を奉った釣幻の脚本に付き合わねばならんのか……!その帝が自身の双子の兄なら――尚更のこと……!
「録尚書事近衛将軍零魂(陽玄)が――皇帝陛下に拝謁致します!」
今度は陽玄が鈔狼に頭を深々と下げる番!ちなみに『近衛将軍』とはこの『長』王朝内で数ある将軍の中では筆頭格!釣幻の『大将軍』に次ぐ地位と言ってよい!
「京賀国摂政火虎高(貴狼)も――皇帝陛下に拝謁致します!」と貴狼も陽玄の傍で、鈔狼に深々と頭を下げている!今回の儀式では、諸侯はたった一人で皇帝陛下に拝謁しなければならない!しかし京賀国の君主である陽玄が“幼君”であることから、京賀国の摂政である貴狼が彼を傍で補佐することを許されている。
「貴公が京賀伯か!面を上げるがよい!」と釣幻の時とは違って、笑みを浮かべる鈔狼。
これに陽玄は「お初にお目にかかります!」とのみ応えて頭を上げる!
この王朝の至高の存在を前にして、手の震えを止めるのがやっと……。
「貴狼も壮健そうで何よりだ!面を上げよ!」と嬉々として貴狼にも声を掛ける鈔狼!
「陛下もご壮健であられて――私も安心致しました!」と貴狼も嬉々として、かって仕えていた元“皇太弟殿下”に応えて顔を見せる。皇帝が諸侯の臣下に対して字で呼ぶということから、今も鈔狼と貴狼は親しくしているようだ。
まだ京賀の二人と話していたい鈔狼だが、これ以上話しては――釣幻が二人を“皇帝と親密な関係者”と見做して何を仕掛けてくるか分かったものではない!
「此度の乱における貴国の功績も著しい!
それ故に――朕は今を以て零魂(陽玄の氏名)を新たに“丞相”に任じる!
並びに“京賀王”に陞爵する!」と鈔狼は陽玄に告げる!
陽玄はただ「ありがたき幸せ!」とだけ応える。貴狼も無言で頭を下げる。
そして鈔狼は名残惜しさを抑えて、京賀の二人に対して「下がってよいぞ!」と告げる。
陽玄は「御意!」と応えて、貴狼を連れて元の席へと戻っていった……。
次回予告:やっと京賀に帰れるかも……。




