飲酒
もうすでに狂っている官男……。
「同志よ……我らの過穀を落とした京賀軍の規模は分かるか……?」と官男は冷静なまま過穀からきた伝令兵に訊いていく。
「はい同志!京賀軍の規模は騎兵の二個隊(二個中隊)程度です!」
「訊きそびれていたが……同志よ。お前はどうやってここに来れたのだ?
同志に礼を失することになるが、お前の足では騎兵を振り切れまい!」
この官男の質問にその伝令兵は、貴狼の言った通りに――
「同志主席の仰る通り、確かに私は京賀軍に捕まってしまいました……。
ですが……隙を見て逃げ――その後は敵の目を掻い潜りながらここに参りました!」と答えてみせる。作り話百パーセント。
実は過穀にいた兵站を担当する非戦闘の諸部隊は、先の話に出た二個騎兵隊が攻めてたらすぐに降伏してしまった。これが現時刻から一時間半ぐらい前の話。
しかも全員一致である!無論、件の伝令兵もこの含まれる。
その伝令兵は京賀の騎兵部隊に捕まっていたところ、偶々《たまたま》貴狼の目に留まった。この時の貴狼曰く、「直感だよ!」とのこと。
ちなみにこの時の京賀の騎兵部隊を指揮していたのも、貴狼である。
それからその伝令兵は、貴狼から官男に今の過穀の現状と経緯、官男の本陣まで行く嘘の過程を授けられていた……。
そして多数の京賀の騎兵を一身に浴びつつ――官男の本陣に至った……。
伝令兵から自身の訊きたいことを一通り訊き終えた官男は――
「そうだったのか……」と何かを考えるように呟く。
それから間もなく彼は暖沼に向かって――
「すまんが同志書記(暖沼の官職)!この同志にあの酒を振る舞ってくれ!」と頼む。
すると頼まれた暖沼は間髪入れずに「はっ!」と応えて、自身の傍に置いてあった徳利と猪口のそれぞれ一個ずつのセットを、官男に手渡す。
そのセットを受け取った官男は、その猪口にその徳利の酒を注ぐと――
「私の“とっておき”の酒だ!飲むといい!」と件の伝令兵に気前よく振る舞う!
これにその伝令兵は畏れ多く感じたのか、「しかし、同志――」と断ろうとする。
しかし、暖沼はそれに若干の怒りを込めて――
「同志主席の酒が飲めんというのか!?」と伝令兵の断りを遮る!
結局、伝令兵は恐れをなして――
「い、いえっ、そういうわけでは……!」と慌てて断るのを断念する羽目になった……。
「そう気にするな同志!過穀政権に身分などないはずだろう!?」
官男の気前の良さに押され、伝令兵は――
「でっ、ではっ……お言葉に甘えて……」と猪口の酒を豪快に一気飲み!
ここまできたら、思い切りの良さで好印象を得られる!と伝令兵は信じている。
あながち間違ってはいないかもしれないが、酒の一気飲みはお勧めできないぞ!
誰も言ってないけど、今は軍務に就いてる最中!大丈夫か!?
ちなみ当作品は飲酒に関しては積極的に勧めない立場を取りたいので――悪しからず!
話を戻して――酒を飲み干した伝令兵に、官男が――
「――それに……お前はもう同志ではない!」と言い放っている最中。
これに伝令兵「それはどういう――」と訊きかけた――その時!
「あっ……!がはぁぁぁっ!」と彼は突然苦しみだして、地面に倒れ込む!
そして自身の身に何が起こったのか分からないまま――あの世へ……!
こればかりは酒を一気飲みしてしまったからという話ではない!
伝令兵に振る舞われた酒に、予め毒が盛られていただけのこと。
この世が乱乱乱世でなければ、立派な推理作品に相応しい場面!
しかし残念なことに、この世には名探偵や名刑事もいなければ、事件に巻き込まれるながもその事件を果敢に解決していくような社会人も全くいてくれない……。
そればかりか“普通”の水準に達する警察などの捜査機関さえもない……。
この場面にここにいる官男の側近達は揃って肝を冷やすばかり……。
その中でただ一人、筆頭の官男の側近である暖沼だけが、先程までは『件の伝令兵』であった肉塊を嘲笑っている……。
「この生塵の首を刎ね、全軍に晒せ!!
そして全ての同士や人民に伝えるのだ!! 『敵の捕虜になった者は、“裏切り”者として粛清す!』と!無論、全地方の同士や人民達にもだ!!」
官男の号令が響き渡る中、一人の勇気ある彼の側近が――
「同志主席!いくら此方の同志(件の伝令兵)が敵の捕虜になってしまったとは言え、我々に“貴重な情報”をもたらしてくれた英雄であります!
仮に処罰は免れぬ者としても、今のはあまりにも――」と反論しかける。
しかし先程までの冷静さが嘘のように激昂した官男に――
「そいつも殺せ!! 裏切り者の戯言を信じる者は――すべて裏切り者として粛清す!」と反論を封じられてしまう。
おまけに暖沼も「粛清せーっ!!」と続く始末……。
次回予告:官男の暴走が止まらない……。




