遺族
そろそろ官男達は踊り始める……。
「『真実を』?それで過穀に向かってきた官男軍を撃破するのですか?」
「いや……その必要もないだろう。仮に撃破するにしても、まだ先の話になる!」と続く月清の質問に対しても冷静に答えて続けていく貴狼。
「すると……官男軍が自滅するのを待つか、弱ったところを狙うわけですね!
ですが官男軍を『弱らせる』として、佞邪の軍はその役を担うでしょうか?」と月清は貴狼の机にある地図を指して、貴狼に訊いてみる。
この時、この過穀一帯を表わした地図には二つの軍隊符号がある。
今、月清に指されている白い軍隊符号が佞邪軍を。反対に、指されていない黒い軍隊符号が官男軍を示している……。
「詳しく言ってみるんだ……」と貴狼の言葉をきっかけに、月清は――
「官男軍はこれから――佞邪軍相手に一戦交えます!
しかし、一戦を交えるだけで“二戦”や“三戦”もしてくれるとは限りませんよ!」と捲し立てる!彼の言うとおり相手が思い通りに動かないには世の常。
無論、月清のこの考えをよく理解している貴狼は――
「確かに、宰相殿下の仰る通りだ!ひょっとしたら官男軍は佞邪軍と戦わず退くかもしれない……!最悪の事態として、両軍が和睦することも考えられる!」と反論しないどころか、逆に肯定以上のことさえしてみせる……。よく自覚している証拠。
「無論、京賀軍が官男軍を討つという手もあります!
ですが――摂政閣下はそれに乗り気ではないようで……」
この月清の追撃に、貴狼は全く崩れずに――
「確かに――今の官男軍を討つことは容易い!
だが、考えても見ろ!いかに官男軍が存在を許されぬ賊共とはいえ、官男軍にも故郷はある。そしてその故郷の過穀には官男軍の家族がいる!」と返してみせる。
これに月清は困惑しつつも「それは当然ですよね……!?」と述べてみせる。
「もし――その家族を“遺族”にさせたらどうなる?」
「!?」
ここに至って、ようやく貴狼の言葉に目から鱗が落ちる月清。
確かにその『遺族』を徒に増やせば、彼らが遊撃兵化し、過穀の占領計画に影響が出る恐れもある。ここで、その遊撃兵対策に金がかかる計画となると、泣く泣く過穀から手を退かねばならない。
過穀は肥沃な地。この乱乱乱世では、食料生産地は一つでも多く欲しい……。
そして貴狼は――
「遺族の憎しみのベクトルは必ず殿下(陽玄)に注がれる!
殿下は若くしてこのことを覚悟しておられるが、臣下としてはどうにか逸らしたい!
これから先――逸らせぬとしても、どうにか最小限には止めたい!」と先の『遺族』についての捕捉を言い加える。
月清はこれに「摂政閣下のお考え――よく分かりました!」とよく納得した上で――
「ですが佞邪軍にどう官男軍と二戦三戦交えさせるつもりで――?
先の『伝令兵を逃がす』話にこのことが繋がらないのですが……」と質問を返す。
このまま佞邪軍と官男軍を争わせて漁夫の利を得たいなら、『伝令兵を送る』という下手な小細工を犯す必要がどこにあろうか……。
貴狼は「それを詳しく話すには――非常に面倒でな……」と頭を掻きながら――
「まぁ……官男は猛己より頭が非常に良い奴だ。
だが京賀にとって良い話、難しく考えな者でな……。
官男は難しく考え勝手に自滅する宿命とだけ言っておくか……」と締めくくることにする……。
同日 正午頃 佞邪救国政府過穀政権 過穀西部 官男軍本陣
それから時を経て――過穀西部で佞邪軍と一戦交えた後、昼食を摂っているいる官男軍の本陣に一人の伝令兵がやってくる。
彼は官男軍の本部天幕に案内されて一番に、声を震わせながら――
「過穀政権の政庁が……京賀軍に手によって落ちました……!」と伝令!
これに暖沼を含めた官男の側近達は皆一声に動揺を抑えきれない!
「ば、馬鹿な……たかが幼君を戴く軍に我らの政庁が……!」
「こ、これでは……官男軍に兵糧が届いてこんではないか……!」
「ま、まさか……撞岩(猛己の氏名)め……!京賀と手を組んだか……!?」
彼らは口々に焦りや怒り、憶測といった諸々《もろもろ》の感情を口にしていく……。
「……!」
暖沼に至っては、言葉が出ない。この天幕内では一番深刻な反応だろう。
しかし、この天幕の中でただ一人動揺を抑えている男がいる。
「……」
それは主席の官男である!過穀政権の主席だけのことはある!
次回予告:踊り狂い始める……官男(実際には踊りません)!




