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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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風呂場

緊張の糸が切れた――猛己……!

「同志!お喜びのところを邪魔しますが――風呂の用意ができています!

 ここは是非、風呂が冷めてしまう前に入浴を済ませるのがよろしいかと――」

「そうだ!風呂だ、風呂!気が利いてるな!」

 申竜の気の利かせように、大喜びの猛己。実際、今の猛己こいつの全身には、官男軍将兵てきの返り血がびっしりと付いている!一見すれば猟奇犯罪者扱いは確実!


「恐縮です、同志主席!では早速、風呂場にご案内します!

 それと、親衛隊の同志の皆様に食事と酒を用意しております!

 無礼を承知で――同志主席より早く配膳してよろしいでしょうか?」

「構わねえぞ!それに『救国政府おれたち』の身分は平等!細けえこたぁいい!」

 続いての申竜の申し出に、猛己は即時に快諾する!上機嫌の証である!

 ちなみに猛己は機嫌が悪い時に限って――身分等を用いてくる男である。

「ではこちらへ――」と風呂場への案内を始めた申竜に、猛己は――

「風呂だ、風呂~っ!」と喜びを抑えられないまま、申竜の後をついていった……。


 それから猛己の声が聞こえなくなった時を見計らってか、一人の幼児が広間内ここへにんまりとした笑顔を覗かせる。陽玄の“師”を務める鋒陰ほういんである。

 彼はそのまま両手で“丸のサイン”をつくって、広間内ここへ合図を送る。

 すると、陽玄の両脇にいる二名の兵の内の一人から「失礼致します!」という声が上がったかと思えば、彼はもう一人の見張りの兵と共に陽玄を縛る縄をほどき始める。


 声を上げた方の兵が、京賀の摂政である貴狼きろうの変装!

 声を上げなかった方が、前世日本からの転移者である真藤の変装である!

 猛己にとって、貴狼と真藤の両名は会ったこともない相手。故に全く怪しまれなかった!

 それに自身の兵らの顔を真面まともに覚えてくれる指導者なぞ――どの世界にいる?

 ちなみに、この時を貴狼が改装していわく――

「兜を被っていれば、案外ばれんものよ!」とのこと。冗談だろうから、鵜呑みは厳禁!


 縄を解かれた陽玄は、貴狼と真藤の両名に笑顔で「ありがとう!」と礼を述べる。

 これに空かさず貴狼が「恐れながら――これからが肝心で御座いますぞ!」と返す。

 陽玄はいつもの鉄面姫てつめんきに戻って「うむ!」と気合を入れる!


 こんな陽玄かれに向かって、鋒陰が――

「予定通り、傍矛と洲漕達は猛己が連れてきた兵達の相手をしに行ったぞ!」と報告!

 猛己が連れてきた親衛隊四十名にお酒を振る舞う予定!

 後は言わずもがな、親衛隊かれらは酒に仕込まれた眠り薬で夢の世界へ直行の運命!

 この時点で政庁の内外に月清が率いる精鋭部隊が潜んでいるので、もし傍矛らが魔がさして裏切りに走っても、対応可能な体制は既に整っている!


「後は頼むぞ――貴狼、鋒陰、真藤!」とこの陽玄のかけ声に、名を呼ばれた三人は――

「「「御意!」」」と一斉に返してみせる……!



 それから五分も経たずして――政庁内の風呂場。

 そこでは、猛己が「うぃ~っ!」と奇声を上げて湯にかっている。

 この時の猛己――牙が抜けた完全なリラックス状態モードに移行済みである。


 余談だが、この世界の旧日汎(じっぱん)地域での部屋のあかりは、風呂場に限らずほとんどが提灯ちょうちん行灯あんどん等。

 故に前世の者達からしたら、夜をあんまり照らしてくれない……。

 ちなみに今、猛己がいる風呂場には提灯が完備されている……。


「コンコンコン!」と風呂場の戸を叩く音!これに猛己の警戒心が芽生えて――

「誰だ!?」と彼の厳しげな声が戸に向かって放たれた!

 すると、その戸からは――

「申竜です!同志主席にお酒の方をお持ちして参りました!」と申竜の声。

 これに猛己は警戒心を解くどころか、一旦封じてしまって――

「おおっ、ますます気が利くな!入っていいぞ!」と快諾!


「失礼致します!」と申竜は戸を開けて、猛己の下へ酒を運んでくる。

 この時、持ってくる申竜の両手には一枚のお盆が抱えられている。

 そしてお盆の上には、一本の徳利とっくり一つの猪口ちょこが載っている。



「どうぞ……」と猪口に注いだ酒を猛己に振る舞う申竜。

 猛己はその猪口を片手で持って、そのまま猪口に入った酒を己の口へ投入。

「風呂の中の酒も――美味うまいもんだなぁ……!」と感想を述べてみせる。


「……!」

 上機嫌な笑みを浮かべる猛己を見て、自身も笑顔を浮かべる申竜。

 ――頼む!そのまま上手うまくつろいでくれ……!と反面、内心では焦りに焦りまくっている。この時の彼の命運――否、“命”は猛己の機嫌にかかっている……!

次回予告;猛己に運命の時……のはず!

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