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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第三十七話:俊雄の判断

いざ、攻己よ! 運命の時!

「ざっ、残念ながら……ちっ、力が及ばず――」

 腹をくくって正直に話そうとする攻巳であったが、猛己ちちが内容を察してしまった時点で、当の猛己ちちから「あの役立たず共がああああっ!!」と遮られてしまう!


 そして猛己もうきは怒りの勢いに任せて、自身専用の大剣を投げ飛ばして、本陣の護衛兵一名の首を切断、その命をこの世から飛ばしてみせる! さらに切断した大剣の勢いを殺すことのないまま、別の護衛兵一名の心臓に刺さって――ようやく止まった。

 結果――猛己が投げ飛ばした大剣は、計二名の兵の命をこの世から飛ばした!

 この残酷な結果に、遂に攻巳こうしは腰を抜かして、地面に尻を突けてしまう……。

 周りの護衛兵やら、猛己自身の従兵やらもビビって固まってしまう者が続出。

 最悪の者は、己がちびってしまったことにさえ気づかなかったらしい……。

 中には飛んだ首と不意に目が合ってしまい、己の意識を飛ばしてしまったものもいる。


 直後の「飯だあぁ! すぐに飯を用意しろ!!」との猛己の命令に、周りの者達は――

「はっ、はっ、はいいいいいいっ!」と奇声を上げながら、命令を受けるふりをして、この場を逃げるべく、全力で走って辞していってしまった。しかもほぼ全員……。


 それから別件を思い出した猛己は、唯一この場から逃げられなかった攻巳に――

「建(傍矛ぼうむの名)の奴はどうしてる!?」と尋ねてみる。頭が少し冷えたのだろう。

 しかし尋ねられた攻巳は今も恐怖に心を縛られている為か――

「の、狼煙のろしからでは――てっ、敵を追い払えたので、畔河に戻ってる最中です!」と上手く舌が回ってくれないまま報告。その肝は“冷える”を通り越して、凍ったまんま!

「早く過穀ここに来させろ! 休ませずになっ! それも走ってだっ!」と猛己は帰り血で染まった顔を攻巳に突きつけながら、彼に命令を下した!

 これによって、攻巳も遂に「たっ、直ちにいいいいっ!」と恐怖で叫びながら――先にこの場を辞していった者達への仲間入りを果たしていった。しかも半泣きで……。


 こうして猛己の周りには誰もいなくなった。おまけにその上空には鳥も飛んでいない。

 猛己を止められる者は一人もいなければ、彼の周りにいたがる者も全くいない……。

 もうこの場にしか聞こえるのは、猛己の「はぁ、はぁ……」という荒い息遣いのみ。

 これほど虚しくて切ない野郎の息遣いがあろうか。少なくとも畔河ここでは初かも。


「そろそろのはずだ……そろそろ――!」と何かにすがる様に空に呟く猛己。

 その空の方角には自身の主君がいる佞邪国の丘幸みやこがある――はず……!

 今の猛己かれは自身の軍どころか身内さえも期待していなければ、信じてすらいない! もうこの状況で頼れるのは自身の主君が率いる佞邪ねいじゃ国のみ……。

 ――確か……今日の日が出ている内に、殿下(佞邪の君主である釣幻ちょうげん)が援軍を過穀ここに差し向けてくれるはずだ……! と密書の内容を思い出す猛己。

 しかし、当の主君が寝坊して肝心の援軍が遅れてしまい、こんな釣幻ちちを支える俊雄むすこの判断がその遅れに拍車をかけていることを、猛己は知るはずもない……。



  せい歴八百四年四月二日 午後零時二十分

  佞邪国 丘幸きゅうこう(同国の首都) 丞相(宰相)府(佞邪侯の私邸)

「はーっ、はっは! 酔った! 酔った!」と自身の私邸で気持ち良く酔っている釣幻。

 今日も元気に散財している! それも領民や諸侯から徴収した血税で!


 本来、反乱勢力である佞邪救国政府が分裂して翌日が経過した、この日の朝(午前七時)に過穀かこくで戦っている非公式重臣の猛己に対して援軍を差し向ける予定だった!

 しかし、釣幻は今日も元気に寝坊! こんな奴の頭に『猛己』という輩のことなど皆無!

 そして、援軍を担当する将軍に対して狼煙を上げて連絡するべき時刻ギリギリのところで、側近である副官の一人から援軍の件について判断を求められると――

「うるさい……! そんなの後にしろぅ……! 俺の眠りを妨げる気かぁ……!」と寝ぼけながら不機嫌気味に答えて、その直後から気持ち良く睡眠を貫徹する始末。


 結局――自らの君主に判断を求めることを諦めたその副官は、次に君主の息子にして自国の宰相である俊雄しゅんゆうに判断を求めることにする。

 ――釣幻おちちぎみと違い、真面まともな宰相殿下(俊雄)ならば「担当の将軍に過穀へ援軍を差し向けるよう、狼煙を上げよ!」という指示を頂ける! と思っていた。

 だが意外なことに、俊雄の口から出た判断こたえは――

侯爵こうしゃく殿下(釣幻)の許可が無い状態で、軍を動かすわけにはいかん!

 将軍(援軍の担当指揮官)には『待機』と伝えるのだ!」という命令もの

 この俊雄の判断こたえに驚きはしたものの、判断こたえの内容自体は至極全うなので、何も疑わすに担当の将軍に狼煙のろしで『待機』と伝えるよう動いていった。


 それから、釣幻が目覚めたのは二時間以上過ぎた頃……。

 当然、過穀にいる猛己に差し向けられるべき援軍は、予定より大幅に遅れて――今日の午前十時ぐらいに過穀へ出発していった……。

 これでは、休憩をはさむ関係から過穀もくてきちに着くのは今日の夕方。

 しかも肝心の援軍の規模は一個中隊二百名のみ。目的に至ってはなんと威力偵察!

 猛己がこれを知れば、「帝に奏上するための建前だ!」と思うだろう。

 だが、これが佞邪侯と宰相の本音でもあると知れば、きっと放心してしまうに違いない!

次回予告:悪い宰相やその息子にも事情はある!


今回の登場人物

*佞邪国

釣幻ちょうげん:佞邪国の侯爵(君主)。

俊雄しゅんゆう:佞邪国の宰相にして侯世子(次期君主)。


*佞邪救国政府畔河政権

猛己もうき:畔河政権主席(最高指導者兼元首)兼校尉(同政権の最高司令官)。頭に血が上りやすい豪傑。

攻巳こうし;畔河政権総理(首相)兼軍師尉(参謀総長)。猛己の次男。まだ16歳。

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