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魂魄双伝~祖国統一編~  作者: 希紫狼
序章~塔零記~
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第三十一話:金川の戦い~仲間外れの傍矛~

どの世界でも――酒の類は存在すると思う……。

「実際、私は今日の昼の金川ここで、京賀軍てきに攻められ捕虜になりました!

 この時に金川ここへの攻略を指揮していたのは、京賀伯(つまり陽玄)の叔父である宰相(つまり月清)でした! それに私はこの耳で、京賀軍てきの兵達がこの者に向かって『宰相殿下!』と呼んでいるのをしかと聞いていました!」

 自分の耳を指しながら、力強く傍矛ぼうむに訴える申竜しんろう

 事実、昼に京賀国の中団(月清が率いている部隊)に捕らえられた時、自分から月清のことを『宰相殿下!』と敬称込みで呼んでいた。確かに――嘘はいてはいない。


 そして、これを受けた傍矛は快く信じて――

「確か――『宰相』つっても、二十歳にもなってねえ小僧がきだろ!?」と頭を抱えながらも、偶然耳に入った風の便たよりを思い起こす。ある昼寝の直前のことだ。

 その際に、彼の顔には嫉妬という感情ものが漏れだしている。

 ――俺は二十歳過ぎても、まだろくな官職に就いてないってのに、何で二十歳にもなってねえ野郎が『宰相』なんだよ! と内心に至ってはその炎を「メラメラ!」と燃やし続けている……。いくら弟より劣っている点が多い身とはいえ、無理もないか……。


「ええ。ですからこの戦は京賀軍てきにとっては宰相への“箔付け”が目的やもしれません! 今の御時世、無能な君主や重臣はすぐに廃されますから……。

 それに、京賀国の人民から『自身の親族を国の要職に就けて優遇している!』と思われるのも心外でしたでしょうから……。そのイメージの払拭ふっしょくの為にも……」

「けっ、故郷くにで捕虜を見せびらかすか! さぞ、いい気分だろうよ!」

 続く申竜の推測に、ますます嫉妬の炎を燃やす傍矛。

 もしこの時、彼の足元に小石があったら、思いっきり蹴飛ばしていることだろう……。


 ちなみにこの時の申竜。今の傍矛の内心をある程度は察している。

 しかし、察してもどうにもできないし、する必要もないので――

「なお、宰相は“外戚”とは言え、京賀伯の親族であることに変わりはありません!

 万が一、この者が捕虜を殺したとあらば、京賀伯の名誉を汚すことになります!

 故に“希望的観測”なのは承知で、囚われた同志達が殺される可能性は低いかと……!」と推測を述べることを続ける。それが無難であるが故に……。


「えっ……? あっ~っ……? 『外戚』って?」

「宰相の兄(つまり陽玄の父)は前京賀伯(つまり陽玄の母)の婿で、伯家(君主家)である『れい(陽玄の姓)』氏の人間ではありません!」

 自らのちょっとの疑問を発端とした申竜の答えに、傍矛は目を丸くして――

「お前――そういうこと、よく知ってるな~っ!」と感嘆の声をだだ漏らす。

 これに対して、申竜は飽くまで冷静に――

「いえいえ……。私は機関紙に載っていたことを述べたまで……」と謙遜を貫いた。

 しかし――こんなことで褒めるとは、噂通りの馬鹿かも……。

 そんな申竜かれの内心に至っては、傍矛の能力を半ば見限っている……。

 事実、畔河政権の領域エリアのみならず、過穀政権の領域エリアでも「傍矛は愚かで劣っているので、いつか粛清ころされる!」と噂のネタにされている。

 ――それにしても、いくら皆々が傍矛こいつに遠慮して陰で悪口を言うだけに留めているとはいえ、その片鱗も感じ取っていないとは……。と内心で呆れてもいる申竜。

 まぁ、こんな当の本人でも、誰からも馬鹿にされてること自体は、流石に察している。


「そうなのか? 俺ぁ読む必要ねえから、知らなかったなぁ……。俺のとこにはその……『機関紙』ってのが回ってこなかったしな~っ!」と笑い飛ばす傍矛。

 これが父である主席(畔河政権の最高指導者兼元首)の「別に傍矛あいつに回すこたぁねえだろ! 馬鹿だから、見ても分かんねーし、大したことねーよっ!」という命令でも何でもない、何気ない発言からくる現実ものだとは、露程も知らない。

 もう“同志”どころか、“頭数”にも入れてもらえなかったようである……。

 まぁ、あながち間違っているわけではなかったが……。

 ――あんた……完全に仲間外れにされとる……!と聴いてしまった申竜の内心。

 同時にくだん傍矛ほんにんを全力で哀れんでもいる……。


 それから、程なくして「同志従兵長ーっ!」と洲漕しゅうぞうの声が跳んできたと思えば、その声主が傍矛と申竜の二人がいる天幕ところに入って来た。

 これに申竜が「どうした!?」と尋ねると、洲漕は――

金川ここの人民達が宴の席を用意してくれてるみたいです!

 食べ物は兎も角、酒の方はたんまりあるみたいですよ!」と嬉々とした声を上げる!

 それに釣られてか、傍矛も「うっひょーっ!! それ、マジかーっ!?」とテンションアップ!

 これに洲漕もテンションアップしながら、小躍りして――

「それで代表者達が『ずは同志に改めて礼をしたい!』ということですが――?」と本件を二人に伝える。その目に至っては「キラキラ!」している……。

 すると、ハイテンション真っ只中の傍矛は「いいぞ! 通してやれ!」と即刻許可。

 後先を考えないどころか、原因さえ全く考えない単純ぶり。

 この時、この天幕にいる三人の内、申竜だけが只ならぬ予感を覚えていた……。


 それから、金川ここの代表者達から礼を受け取って、直後に酒も勧められた傍矛。

 結果、彼は何も考えることなく、「よっしゃーっ!」と乗りだけで即――飲酒!

 それから三分も経たず、彼は現実ここよりも心地よい夢の世界へ突入していった!

次回予告:やっと一日が終わる――といいな~。


今回の登場人物

*佞邪救国政府畔河政権

傍矛ぼうむ:畔河政権付(無任所大臣相当)。猛己の長男。後継者争い敗者。

申竜しんろう:一分隊長。武将を目指しているがヘタレ。

洲漕しゅうぞう:申竜の部下。

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