第三十話:金川の戦い~ヤバい発言~
困ったときは――できる人に聞く!
「本来は……今すぐにでも引き返すべきです!
畔河の守りが手薄である以上、早く戻るに越したことはありません!」
傍矛に頼られた申竜は、はきはきと答えてみせる!
すると傍矛は「あぁ……『本来は』って?」と訊き返してくる。
後継者争いに負けたが故に、今まで兵法を学ばせてもらえなかった為か……。
基本的に何でも訊きたがる傍矛。故に申竜におぶられてる感じが否めない……。
「ですが同志! ここで退き返しては、ただ金川を奪還しただけです!
これでは、失った土地を取り戻しただけで、何も手柄を立てていません!」
「まぁ……確かに。言われてみれば、そうだな……」
「それに連れて行かれた同志達を救いださない限り、畔河政権に残るのは、『損失』の二文字のみ! さぞ――他の同志達や人民達はさぞ失望するでしょう!
これでは今回の出撃が無駄になってしまいます!」
「……」
申竜の説得に、頭を抱えて押し黙ってしまう傍矛。
一刻も早く畔河に戻る必要性も自覚しているが、ここで戻っても「おめおめと一個小隊失って、何してんだっ!?」と猛己の雷が落ちる可能性がある。
夕方に上げた狼煙に対して何も返事をよこしていないことから、今回の出撃は黙認されていると言っていいだろう……。いや、黙認されているのは確実だ。
しかし、何も手柄を立てていないとなれば、「勝手に兵を動かした!」として掌を返されてもおかしくはない。最悪、粛清されてしまう……。
前方には京賀。後方には猛己。今の傍矛に逃げ場はない。
進むか退くかの二択に迷うに迷っている傍矛。そこへ申竜は――
「まぁ――金川から進むにしろ、引き上げるにしろ、今は休息が必要です!
今晩は金川で過ごしましょう……!」と促すことにする。
実は申竜も、進むか退くか迷っている一人。判断するには情報が足りない……。
ならば申竜は――ここは気分転換を兼ねて休むのが一番! と信じることにする。
こういう時こそ休まないで、陸な結果を期待できようか……!
結局、申竜に促された傍矛は「そうだな……今日はもう休むか!」と応える。
これを聞いた申竜は「では、私はこれにて――」とその場を辞そうとするが――
「その前にちょっといいか? 気になることがあんだけどよ……」と傍矛に止められる。
すると「何でしょう?」と申竜は、不満を一切感じることなく応えてくれる。
「それがな……。京賀軍せっかく金川まで来たっていうのに……。
何ですぐに引き揚げちまったんだろうなぁって?」
「その事態でしたら……自政権の畔河を攻めるには多勢に無勢と思って、引き上げてしまったのかもしれません! 」
「そうだけどよ、一回というか……“試し”で攻めてきてもおかしくなくね?」
「仰る通り、あの時の京賀軍には“威力偵察(攻撃してみて、敵の戦力を測ること)”という手段がありました! しかし、それの手を使わなかった!
――となると、元から金川の警備に就いていた同志達を捕らえてしまったことで、京賀軍に兵糧に予定外の負担がかかっていることが考えられます!
それ故に退いていったのであれば、腑に落ちます!」
「つまり――捕虜に飯食わせる羽目になっちゃったから、出直すことになっちまったってことだろ? 同志の俺がこんなこと言いたくないけど――」
「!」
これから傍矛がヤバいことを言うつもりだと察した申竜。
だからと言って、傍矛の発言を遮るのはきまりが悪そうなので、申竜は「小声で、小声で――!」と傍矛に頼み込んで耳を貸すことにする。
すると傍矛は小声で「捕虜殺せば済む話じゃね? 何も全員じゃなくて、余分な奴だけとか……」という誰かに聞かれたら本気でヤバい発言を耳に送り込む……!
「……!」
――小声で頼んで良かった……! と内心で安堵する申竜。しかし、その面持ちは暗い。
申竜はその直後、すぐに気持ちを切り替えて――
「同志! お答えするその前に言わせてもらいますが、この質問は不謹慎が過ぎます!
無論、私はこれを聞かなかったことにします!
ですが万が一、これが同志主席の耳に入りでもすれば――」と傍矛に諌言することを忘れない。上官に媚びる性格でもこれだけは譲れなかった。
さらに申竜はこの諌言の直後に、片手で首を斬るジェスチャーまで加えている。
これが物理的に“首を刎ねられる”意味ということは、どんな馬鹿にでも分かってもらわねば――困るというもの……! 最悪、自分の命も危なくなる!
結果――申竜のこの努力のおかげで、傍矛は「わっ、悪かったよ、気を付けるよっ……!」と弱りながらも理解してくれることになった……。
「では、質問にお答えしますと――戦果そのものが目的ということが考えられます!」と申竜は話を戻すことにする。尤も、その内心は少し動揺したままだが……。
「『戦果そのもの』? それって――京賀軍が捕らえた畔河政権の同志達のことか? 最初から自政権の畔河じゃないってことか?」
よく訊き返してくる傍矛に対して、申竜は「左様です!」と快く応える。
――分からないままして、後の憂いになるよりは……! というのが申竜の考え!
次回予告:いざ――夢の世界へ!
今回の登場人物
*佞邪救国政府畔河政権
・傍矛:畔河政権付(無任所大臣相当)。猛己の長男。後継者争い敗者。
・申竜:一分隊長。武将を目指しているがヘタレ。




